拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】


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『愛美ちゃんへ

 この手紙を田中次郎名義で出そうか、それとも僕の名前で出そうか迷ったけど、君に僕の正直な気持ちを伝えるために辺唐院純也として出すことにした。そして手紙にしたのは、電話では話しにくいし、メッセージやメールには書ききれないと思ったから。
 まずはこの三年間、君を欺いてきたことを謝らせてほしい。本名を隠して援助していたことは、僕のわがままでしかない。君にも言ったけど、本当のことを早く打ち明けられたらどれだけ楽だろうと、何度思ったか分からない。でも、できなかったんだ。いつか君に幻滅されるんじゃないかって、ずっと怖くて言えなかった。まさか君が、だいぶ早い段階からその事実に気づいていたとは思っていなかったから。
 それでも君は、「どうして本当のことを話してくれないのか」って一度も僕を問い詰めなかったね。それどころか、事実を知ったうえでずっと気づいていないフリをしてくれていたんだね。僕はずっと、その君の優しさに甘えていたんだ。自分でも、なんてズルい男だと情けなく思う。本当にごめん。
 プロポーズを断られたこと、はっきり言ってショックだった。僕はてっきり、君が断ることはないだろうと思っていたから。でも、あの時の返事だけが君の本心のすべてじゃないとも思っている。まだ、僕に打ち明けられていない本当の理由があるんじゃないかな?
 僕はもっと君の気持ちを知りたい。僕たちはもっとお互いのことを知るべきだと思うんだ。だから、一度、僕の家で二人でじっくり話し合ってみないか? 君に見せたいものもあるし、僕がどうして君の援助に名乗りを上げたのかも聞いてほしい。
 僕の家、といっても実家じゃなくて、僕が一人で住んでいるタワーマンション。部屋番号は分かるよね? 時間は来週の土曜日の夕方四時ごろでどうだろう? 返事を待っているよ。

六月十四日        辺唐院純也』

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「――純也さんが、わたしの援助に名乗りを上げた理由……」

 手紙を最後まで読み終わった愛美は、その一文に指をなぞらせた。
 聡美園長から聞いた話によれば、彼は女の子が苦手なので愛美より前には男の子の援助しかしてこなかったという。でも、愛美の書いた作文を読んで、「この文才を埋もれさせてはいけない」と思い、愛美の高校進学の際には後ろ盾となることに決めたそうだ。
 実際に女性不信だと知った今、彼はどうして自分の女の子である愛美にそこまでしようと思ったのか、愛美自身も未だそこだけは謎のままだ。

(純也さんは家族に愛されてこなかったから、作文に施設の弟妹たちや職員さんたちのことを「わたしの家族だ」って書いたわたしに興味を持ってくれたのかな? それとも、園長先生からわたしの生い立ちについて聞かされてた、とか?)

 愛美はぜひ本人から直接話を聞きたいと思った。

「……よしっ、さっそく返事を書こう!」

 決心するが早いか、机の上にレターパッドを広げた。