愛美が指摘すると、純也さんは図星を衝かれたらしく赤面してコクンと頷いた。
「…………自分でも、ガキみたいでカッコ悪いなと思うよ。三十過ぎたいい大人の男が何やってるんだって。でもやっぱり君と年齢が離れてるせいもあってさ、自分より君と年齢の近い男が君と仲良くしてると……何ていうか。愛美ちゃんには俺なんかより、そっちの方がお似合いなんじゃないかって思えてきて」
よく「男の嫉妬はみっともない」と言われるけれど、彼の嫉妬はまったくそんなふうに感じられないのはなぜだろう? それだけ、彼に愛されているからなんだろうかと愛美は思った。
「そんなことないよ、純也さん。たとえ傍から見ればお似合いに見える相手がいたとしても、わたしが好きになった相手は純也さんだけだから。そもそもわたし、治樹さんのことは恋愛対象として見てないから。親友のお兄さんだし、もう一人の親友の恋人だし。それに治樹さんはわたしから見たらまだまだお子ちゃまだもん」
十九歳の愛美が五歳も年上の治樹さんを「お子ちゃま」呼ばわりするのも何だか変な話だけれど、一回り以上も年の離れた人と付き合っている愛美からすれば立派な〝お子ちゃま〟なのだから仕方がない。
(多分、わたしが施設出身だからちょっと精神年齢高めなのかも)
「……ホントに?」
「うん、ホントだよ。だから嫉妬なんかしなくていいんだよ、純也さん」
(だってあなたはわたしの救いの神なんだから。もう保護者じゃないのかもしれないけど、今のわたしがあるのは純也さんのおかげなんだよ。だから、わたしは絶対にあなたを悲しませるようなことはできないの)
本当はそう言いたかった。けれど、まだ本当のことを言える時期ではないので、愛美はその言葉をグッと飲み込んだ。自分でも、この言葉が恋人である彼への言葉なのか、それとも保護者である彼への言葉なのか分からないからでもある。
「そっか……、分かった。ホントにもう、俺バカだよなぁ。みっともないところ見せちまってごめん! でも安心したよ。愛美ちゃんが他の男は眼中にないって分かって」
「うん。それはよかった」
「――さてと、じゃあこれから出かけようか。っていっても、もうこんな時間だからいけるところは限られてくるよな……。どこに行こうか?」
純也さんはそう言いながらスマホで時刻を確かめた。
現在、午後三時過ぎ。大学の寮にも当然のことながら門限があり、寮生はそれまでに帰らなければならない。――ちなみに、〈芽生寮〉の門限は午後八時。〈双葉寮〉の門限は午後七時だった。
「じゃあ……、みなとみらいの方に行きたいな。潮風に当たりたい」
元々デートの予定はなかったので、愛美はとりあえず思いついた行き先を提案した。連休中にはずっと会えなかったので、そのまま寮まで送ってもらうのは淋しいと思ったのだ。
****
『拝啓、あしながおじさん。
大学生になって初めての五月の大型連休が明けました。おじさまはどんなふうに過ごされてましたか?
わたしは連休中もずっと、執筆のお仕事に追われてました。〈わかば園〉を舞台にした長編がやっと書き上がるところに、編集者さんがまた短編のお仕事を依頼してきて……。でも、どちらもちゃんと終わらせました!
ホントは連休中に、一回でも純也さんとデートできたらよかったんですけど。彼も仕事に追われてたみたいで、一度も会えずじまいでした(泣) でも、電話とかメッセージでやり取りはしてましたよ。
さて、さっきも書きましたけど、わたしの渾身の一作がついに脱稿しました! 予定より早く書き上げることができて、自分でもビックリしてます。前にボツを食らった長編小説は、書き上がるまでに半年以上もかかったのに。
いつもは原稿のデータをメールで編集者さんに送るだけなんですけど、今回はどうしても直接届けたくて、わざわざ彼に横浜まで来てもらって、原稿を全部紙にプリントアウトして手渡ししてきました。おかげでバッグは重かったし、肩は脱臼しそうなくらい痛くなったけど、わたしもそうすることでこの原稿の重みを身をもって感じることができたから、そうしてよかったって思ってます。
「…………自分でも、ガキみたいでカッコ悪いなと思うよ。三十過ぎたいい大人の男が何やってるんだって。でもやっぱり君と年齢が離れてるせいもあってさ、自分より君と年齢の近い男が君と仲良くしてると……何ていうか。愛美ちゃんには俺なんかより、そっちの方がお似合いなんじゃないかって思えてきて」
よく「男の嫉妬はみっともない」と言われるけれど、彼の嫉妬はまったくそんなふうに感じられないのはなぜだろう? それだけ、彼に愛されているからなんだろうかと愛美は思った。
「そんなことないよ、純也さん。たとえ傍から見ればお似合いに見える相手がいたとしても、わたしが好きになった相手は純也さんだけだから。そもそもわたし、治樹さんのことは恋愛対象として見てないから。親友のお兄さんだし、もう一人の親友の恋人だし。それに治樹さんはわたしから見たらまだまだお子ちゃまだもん」
十九歳の愛美が五歳も年上の治樹さんを「お子ちゃま」呼ばわりするのも何だか変な話だけれど、一回り以上も年の離れた人と付き合っている愛美からすれば立派な〝お子ちゃま〟なのだから仕方がない。
(多分、わたしが施設出身だからちょっと精神年齢高めなのかも)
「……ホントに?」
「うん、ホントだよ。だから嫉妬なんかしなくていいんだよ、純也さん」
(だってあなたはわたしの救いの神なんだから。もう保護者じゃないのかもしれないけど、今のわたしがあるのは純也さんのおかげなんだよ。だから、わたしは絶対にあなたを悲しませるようなことはできないの)
本当はそう言いたかった。けれど、まだ本当のことを言える時期ではないので、愛美はその言葉をグッと飲み込んだ。自分でも、この言葉が恋人である彼への言葉なのか、それとも保護者である彼への言葉なのか分からないからでもある。
「そっか……、分かった。ホントにもう、俺バカだよなぁ。みっともないところ見せちまってごめん! でも安心したよ。愛美ちゃんが他の男は眼中にないって分かって」
「うん。それはよかった」
「――さてと、じゃあこれから出かけようか。っていっても、もうこんな時間だからいけるところは限られてくるよな……。どこに行こうか?」
純也さんはそう言いながらスマホで時刻を確かめた。
現在、午後三時過ぎ。大学の寮にも当然のことながら門限があり、寮生はそれまでに帰らなければならない。――ちなみに、〈芽生寮〉の門限は午後八時。〈双葉寮〉の門限は午後七時だった。
「じゃあ……、みなとみらいの方に行きたいな。潮風に当たりたい」
元々デートの予定はなかったので、愛美はとりあえず思いついた行き先を提案した。連休中にはずっと会えなかったので、そのまま寮まで送ってもらうのは淋しいと思ったのだ。
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『拝啓、あしながおじさん。
大学生になって初めての五月の大型連休が明けました。おじさまはどんなふうに過ごされてましたか?
わたしは連休中もずっと、執筆のお仕事に追われてました。〈わかば園〉を舞台にした長編がやっと書き上がるところに、編集者さんがまた短編のお仕事を依頼してきて……。でも、どちらもちゃんと終わらせました!
ホントは連休中に、一回でも純也さんとデートできたらよかったんですけど。彼も仕事に追われてたみたいで、一度も会えずじまいでした(泣) でも、電話とかメッセージでやり取りはしてましたよ。
さて、さっきも書きましたけど、わたしの渾身の一作がついに脱稿しました! 予定より早く書き上げることができて、自分でもビックリしてます。前にボツを食らった長編小説は、書き上がるまでに半年以上もかかったのに。
いつもは原稿のデータをメールで編集者さんに送るだけなんですけど、今回はどうしても直接届けたくて、わざわざ彼に横浜まで来てもらって、原稿を全部紙にプリントアウトして手渡ししてきました。おかげでバッグは重かったし、肩は脱臼しそうなくらい痛くなったけど、わたしもそうすることでこの原稿の重みを身をもって感じることができたから、そうしてよかったって思ってます。



