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千藤家に到着して部屋で荷解きを終えると、愛美とさやかはさっそく多恵さんに農園へ連れてこられた。
「――じゃあ、二人にはハウスで夏野菜の苗を植えるのを手伝ってもらうわね。ここはトマトのハウスで、あっちがキュウリ、その隣りはナスね」
「はい。あたしのウチ、祖母が家庭菜園をやってて、高校の寮に入るまではあたしもよく手伝ってましたから」
「そうなの? じゃあ、強力な助っ人が来てくれたわけね。助かるわぁ」
「多恵さん、さやかちゃんをこき使う気満々ですよね」
「あら、バレちゃった? なんてね、ウソよぉ。そんなに大きなハウスじゃないし、三人で協力してやれば早く終わるわ。その後は一緒にパンを作りましょ」
「「は~い!」」
三人は力を合わせて苗の植付けを頑張った。さやかはさすが実家で祖母の菜園を手伝っているだけあって、慣れた手つきで苗を植えている。
「珠莉ちゃんもここの作業を手伝ってたら、トマト嫌いも克服できるようになるかな。これだけ大変な工程を踏んで、美味しいトマトが実るんだって分かったら」
「そうだね。珠莉はともかく、子どもたちの食育にはなるんじゃないかな。あー、あたしやっぱり教職課程選べばよかった!」
「さやかちゃん、結局福祉学部に進むって決めたんだもんね。でも、児童福祉に関われるんだから」
「……だね。後悔はしてないよ。けど、そっちの道もあったなぁって思ってるだけ」
さやかは進路を決める十一月ギリギリまで迷って、最終的に教育学部ではなく福祉学部を選んだのだ。そして将来的には児童福祉に関わる資格を取って、児童相談所などに就職するのだという。
「わたしは応援するよ。進む学部は違うけど、大学に入ってからも、その後だってずっと親友だと思ってるからね。もちろん珠莉ちゃんも」
「愛美……! うん、ありがとね」
三人は大学の寮でも同室になろうと決めているのだ。将来誰かが結婚して母親になっても、この友情は永遠に続いていってほしいと愛美は思っている。
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『拝啓、あしながおじさん。
もうすっかり春ですね。お元気ですか? わたしは今日も元気です。
ところで、消印に気づきました? わたしは今(というか明日まで)、さやかちゃんと一緒に長野の千藤農園に来てます。学校は今、卒業前の自由登校期間なので。せっかくの連休だし、静かなところで過ごしたいよねっていうことになって。
寮の食堂でみんなと一緒にゴハンを食べるのがもうムリなくらい、神経が参っちゃって。だって、隣りとか向かいの人と話すにも、手でメガホンを作って「おーい、聞こえる?」ってやらないと聞こえないの。大げさじゃなく、これホントの話なんです。
で、さやかちゃんが「一度千藤農園に行ってみたい」って言うので、今回一緒に来たというわけです。
善三さんも多恵さんも、さやかちゃんのことを温かく迎えて下さって、「女の子が二人いると華やかでいいなぁ」って喜んで下さってます。
さやかちゃんと二人、ここで色んなことをして過ごしてます。ハウスで育ててる夏野菜の苗を植え付けるお手伝いもしたし、多恵さんと佳織さんと一緒にパン作りもしました。さやかちゃんのお家ではおばあさまが家庭菜園をされてるので、さやかちゃんはよくお手伝いをしてたって言ってました。多恵さんのパン作りの腕も、一昨年の夏からグンと上達してました。もちろんみんなで美味しく頂きましたよ! 夜はさやかちゃんが勉強のために福祉関係の本を読んでる間、わたしは持ち込んだパソコンで原稿を書いてました。
今日は午前中から二人でお弁当を持って、二年前の夏に純也さんと一緒に登山した山に登りました。春とはいえまだ寒かったので、二人とも山ガールスタイルで、防寒対策もバッチリして行きました。
山頂には、あの時彼が料理用に火を起こした焦げ跡がまだ残ってて、わたしはちょっとしんみり。「純也さんも来られたらよかったのにね」ってさやかちゃんが言ってくれました。彼は仕事が忙しいみたいで、わたしから「一緒に千藤農園に行かない?」ってメッセージを送ってみたんだけど、「ゴメン! 忙しいからムリだな」って返事が来てたんです。ホントに、彼も一緒だったらもっと楽しかっただろうな……。
明日にはもう横浜に帰らなきゃいけないけど、ここでの三日間ですっかりリフレッシュできました。
新作の執筆は順調に進んでます。この調子でいけば、五月には書き上げられるかな。自画自賛かもしれないけど、今回のはホントに自信作です! この小説は絶対、絶っっ対に出版まで漕ぎつけてみせますから! 楽しみに待ってて下さいね。
そして、もう来週には卒業式です。初めて高校の門をくぐってから、もう三年経つなんて……。あっという間の三年間でした。
卒業式にはさやかちゃんのご家族も(治樹さんは来られるかどうか分からないみたいですけど)、珠莉ちゃんのご両親と純也さんも出席するみたいです。わたしは〈わかば園〉の聡美園長先生を呼ぼうかとも思ったけど、山梨からわざわざ来てもらうのは申し訳ないのでやめておきました。ホントはおじさまに来てもらいたいけど……、多分ムリですよね。それじゃ、また。
三月七日 長野県・千藤農園にて 愛美』
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