「そんな! わたしは十万円でも多いくらいです。一ヶ月間、お世話になりました。麻利絵ちゃんに、希望の高校に合格できるといいねって伝えて下さい。それじゃ、失礼します」

 ――こうして、愛美は葉山の秦野邸を後にして、さいたま市の牧村家へ向かうのだった。


   * * * *


 ――それから四日後。愛美は〝あしながおじさん〟宛てにハガキを出した。
 幸い、久留島さんからは手紙も来なかったし、電話がかかってくることもなかったので、さやかの実家でのびのびと夏休みらしい日々を過ごすことができたけれど。
 愛美にはひとつ、心に引っかかりが残っている。それは、まだケンカ中だった純也さんとの関係を修復できないでいること。千藤農園へ行くことになっていたら、そこで彼に会えて仲直りができたかもしれないけれど。そうしなかったので、仲直りのタイミングをうまく掴めずにいたのだ。

(わたしも大人げなかったのかな……。いつまでも意固地になってちゃ、いつまで経っても仲直りなんてできないよね)

 彼は大事な人なのに……。愛美のことを本気で好きだと言ってくれた人なのに。

(だったら、わたしから歩み寄らなきゃ! おじさまに……あの人に手紙を出そう)

 そう決意して、(したた)めた手紙だった。


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『拝啓、おじさま。

 おじさまからの手紙も、久留島さんからの連絡も間に合わなかったみたいですね。よかった。
 消印でもお分かりの通り、わたしは埼玉にあるさやかちゃんのご実家に来てます。今日で五日目。
 さやかちゃんのご家族はみんな優しいし、毎日楽しくのびのびと過ごしてます。映画を観に行ったり、プールへ泳ぎに行ったり。
 今日は花火大会なので、もうすぐ花火が上がるよってさやかちゃんが呼んでます。それじゃ、また。
 でも、純也さんと仲直りするタイミングを(のが)しちゃったかなって、ちょっと悔やんでます。こっちから連絡して、謝った方がいいのかな……?
 学校の寮に戻ったら、わたしから一度メッセージを送ってみようと思います。        かしこ

八月二十四日        さいたま市・牧村家にて   愛美』

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