拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】

(久留島さんにも何かとお世話になってるから、そのお礼ってことで。純也さんも久留島さんのことは何も言ってなかったし)

 これなら純也さんが二人分もらうことにもならないし、門が立たない。

「……わたし、もう一人あげたい人がいること思い出した」

「えっ? 誰だれ?」

「おじさまの秘書の人。普段お世話になってるから、そのお礼に」

「「ああー……」」

 愛美の答えに、二人ともが納得した。

「おじさまの分は要らないって純也さんに言われたけど、秘書の人は別でしょ?」

「……確かに」

「そうねえ。叔父さま、秘書の方のことは何もおっしゃってなかったんでしょう?」

「うん。っていうか、わたしもついさっき思いついたの。なんで気がつかなかったんだろう! ……あ、一人分増えたら毛糸足りない! 買い足さないと!」

「待って待って、これから行くの? もうすぐ暗くなるし、一人で行ったら危ないよ。あたしたちも百均行くの付き合うから、とりあえず愛美は着替えておいで」

「……あ、そうだった」


 愛美が私服に着替えてから、三人は百円ショップでグレーの毛糸の他にチョコ作りの道具やラッピング用品などもドッサリ買い込んだ。


   * * * *


 ――仲良し三人組で編み物教室とチョコ作りを楽しみながら頑張り、迎えたバレンタインデー当日。この日は土曜日。学校はお休みである。

「愛美、初めての手作りチョコ、ちゃんと美味しくできてよかったね」

「うん! これなら自信持って純也さんに渡せるよ。絶対喜んでくれると思う」

 昨日、できたチョコを一人一個ずつ試食してみたら、満足のいく出来だったのだ。

「珠莉も、手編みのマフラー、どうにか形にはなったし」

「ええ。さやかさんの教え方がよかったからよ。あとはラッピングで何とかごまかしましたわ」

 元々編み物が得意な愛美とさやかが編んだものの出来映えは、言わずもがなだ。特に愛美は、同じ日数で純也さんの分と久留島さんの分の二本を編み上げている。

「――さて愛美、純也さんは何時ごろ来られるって?」

「昨日メッセージ来てたけど、三時ごろだって」

「んじゃ、あと一時間くらいか。お兄ちゃんも呼ぼっかな♪ 春から横浜(こっち)の会社に就職決まったらしくってさ、東京から通勤してくるらしいんだ。一時間もあれば来られるっしょ」

 さやかちゃんはデニムのスカートのポケットからスマホを引っぱり出して、治樹さんに電話をかけた。

「――もしもし、お兄ちゃん。今日バレンタインじゃん。でさ、珠莉がお兄ちゃんに渡したいものあるって。今からこっちに来られる?」

 治樹さんが純也さんと顔を合わせるのは、原宿へ遊びに行った五月以来、七ヶ月ぶりだ。あの時の純也さんは治樹さんに嫉妬心むき出しで、愛美も「大人げない」と思ったけれど……。

(……ま、今回は大丈夫でしょ。わたしともう恋人同士なわけだし、治樹さんは珠莉ちゃんに会いに来るんだし)

「……分かった。じゃあ待ってるからね。――珠莉、お兄ちゃんもこっち来るって」

「そう。……嬉しいけれど、何だかドキドキするわ」

「分かるなあ。わたしも今、ドキドキしてるもん。付き合ってたって気持ちはおんなじ」

 好きな人に贈り物を渡す前の女の子の気持ちは、誰しも共通しているのかもしれない。「喜んでもらえるかな」「ガッカリされないかな」と。
今日はそんな女の子たちが全国に溢れ返る、そんな日なのだ。

「ええ、……そうね」

「喜んでもらえるといいね、お互い。頑張って作ったんだもん」

「ええ」


   * * * *


「――やあ、愛美ちゃん! 珠莉にさやかちゃんも、元気してた?」

 午後三時を過ぎて、〈双葉寮〉の前に現れた純也さんは、休日だからかハイネックのニットの上からダウンジャケットを着込んだカジュアルスタイルだった。ボトムスは焦げ茶色のコーデュロイパンツ。デニムではないところが、全体のバランスを整えていてオシャレな彼らしい。

「はい、みんな元気ですよー。愛美も今年はインフルかかんなかったしね」

「うん。純也さん、来てくれてありがとう」

「叔父さま、ようこそいらっしゃいました。今日はまたずいぶんとカジュアルな装いですこと」

「三人とも、熱烈歓迎ありがとう。そして珠莉、今日も辛辣なコメントありがとうな」

 純也さんは出迎えてくれた三人に笑顔でお礼を述べ、姪である珠莉にはブッスリと釘を刺すことも忘れない。

「……それはさておき。さやかちゃん、珠莉、これは俺から。欧米では、バレンタインデーには男から女性に贈り物をする日なんだ。って珠莉は知ってるか」

 彼はまず、二人にチョコレートの箱を手渡す。多分、一箱千円はする、ちょっとお高いチョコだと愛美は推察した。

「わあ、ありがとうございます!」

「ありがとうございます、叔父さま。……あら、愛美さんの分は?」

「そして、愛美ちゃんにはこれ」

 愛美にくれたのは、可愛い猫をモチーフにした別のブランドのチョコだった。……確かこれは、一箱二千円くらいしたはず。

「ありがとう! これ、SNSで見て気になってたの。可愛くて食べるのもったいないなぁって」

「ホントに? 俺もさ、こういうの愛美ちゃんは好きそうだなと思って選んだんだ。喜んでもらえてよかった」

「……なんか、愛美のだけあたしたちのと差つけられちゃったよね。別にいいんだけどさあ」

「そりゃ、彼女だからね。二人には申し訳ないけど、差をつけさせてもらいました」

 さやかのボヤきに、純也さんは悪びれた様子もなく答えた。

「……あ、治樹さん」

 そこへ、タクシーからさやかの兄・治樹が降りてきた。