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愛美が午後の部室で、自分のパソコンで原稿を書いていると、顧問の上村先生に「遠慮しないで、部室のパソコンを使っていいのよ」と言われた。
「ありがとうございます、先生。でも、ここのパソコンはみんなの物ですから。わたし一人で独占するわけにもいかないじゃないですか」
「……そう? まあ、プロの作家になったからって、特別扱いはよくないわよね」
「そうでしょう? もしかしたら、この文芸部から第二、第三のわたしが誕生するかもしれないんですよ。そういう子たちに部室のパソコンは譲ってあげないと」
部長になる身としては、自分のことばかり考えていてはいけないのだと愛美は思っている。他の部員たちに気持ちよく活動してもらうことが第一だ。
「――それにしても、ウチの部から作家デビューする人が出てくるなんて。確かに相川さんは夏から『公募に挑戦したい』って言っていたけど」
「ですよね。ホントにデビュー決まっちゃうなんて、私もビックリしました。やっぱり愛美先輩には才能があったんですよ」
上村先生が感心していると、一年生の絵梨奈もそれに同調した。
「何言ってるんだか。絵梨奈ちゃんだって、今年の部主催のコンテストで大賞獲ったじゃない。あれだけでもスゴいことなんだよ?」
愛美の作家としての本格的なスタート地点もそこだったのだ。絵梨奈がそれに続かないとも限らない。
「いやいや。去年、愛美先輩が大賞獲った時のコンテスト全体のレベル、めちゃめちゃ高かったって上村先生から聞きましたよ。その中で大賞って、やっぱり先輩に才能があったからですって。私とじゃレベチですよ」
(「レベチ」って、絵梨奈ちゃんってめちゃめちゃイマドキの子だなぁ)
彼女はもしかしたら、ごく一般的な家庭の育ちなのかもしれない。……まあ、社長のお嬢さんにも色々いて、さやかみたいな子だっているので分からないけれど。
「はいはい、そんなに自分を卑下しないの。絵梨奈ちゃんだって、数こなして書いてたらきっと才能が開花するはずだから。頑張って!」
「……はーい」
部員のやる気を起こさせてあげるのも部長の務めだと、愛美は絵梨奈を励ましたのだった。
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――愛美は三時半ごろに部室での執筆を切り上げ、寮に帰る前に少し寄り道をした。
制服のままで――寒いのでコートも着込んできたけれど――学校の敷地を抜け出し、最近学校の近くにオープンした百円ショップに立ち寄る。そこで買い込んだのは大量のブルーの毛糸と編み棒三組だ。
「――さやかちゃん、珠莉ちゃん、ただいま」
寮の部屋に帰ると、二人はすでに帰ってきていた。陸上部も茶道部も早く終わっていたらしい。
「愛美、おかえり!」
「愛美さん、おかえりなさい。今、温かい紅茶を淹れて差し上げるわね。ティーバッグで申し訳ないけど」
「ありがと、珠莉ちゃん。はー、外寒かったぁ」
着替えるのは後にして、愛美は一旦勉強スペースの椅子に腰を落ち着けた。スクールバッグと百円ショップの袋は床にドサリと置く。
「――はい、どうぞ。お砂糖はご自分でね」
「うん、ありがと。……あー、あったまる……」
温かい紅茶を飲んでひと息ついた愛美に、さやかが話しかけてきた。
「ところで愛美、その百均の袋はなに? 何か買ってきたの?」
「うん。ちょっと毛糸と編み棒をね。純也さんに、手作りチョコと一緒に手編みのマフラーをあげようと思って」
「手編みのマフラーか。いいんじゃない? っていうか、あたしだけじゃなくて愛美も編み物得意なんだ?」
さやかは勉強こそ苦手だけれど、こと家庭科に関しては体育と同じくらい成績がいいのだ。幼い頃からあのお母さんとお祖母さんに仕込まれてきたからだろう。
「うん、得意だよ。っていうわけで、バレンタインデーに向けて三人で編み物教室をやろうと思うんだけど、どうかな? 二人の分も、毛糸と編み棒あるから」
「あたしは賛成♪ あげる人いないから、とりあえずお兄ちゃんにあげとくとして、珠莉は?」
「私、編み物したことないの。だからお二人のどちらか、私に教えて下さいません?」
珠莉はしょんぼりと眉尻を下げた。最近の彼女はすごく素直で、初めて会った頃の高飛車な態度はどこへやら。
「いいよ、教えてあげるよ。ただ、わたしの得意な編み方、けっこう上級者向きだから……」
「じゃあ、あたしが珠莉に教えるよ。愛美は奨学生なんだから勉強も大変だし、作家だから原稿も書かなきゃいけないし、忙しいでしょ? ムリさせたらまた去年みたいに倒れちゃうからさ」
「あ……、その節は二人に心配おかけしました。インフルエンザはもう免疫できたから大丈夫だけど、そうだよね。ムリはよくないか。じゃあさやかちゃん、お願い」
「オッケー、任せなさい。そうそう、そうやって甘えられるところは上手く甘えなきゃ」
「そうだね」
ほんの一年くらい前まで、愛美は人に甘えることをよしとしていなかった。甘えていい相手であるはずの〝あしながおじさん〟にさえ――。
今はさやかや純也さんなど、色々な人に素直に甘えることができているけれど、「甘えてはいけない」と思っていたのは自立心の問題ではなく、愛美自身の中に施設出身だということに対する負い目があったからなんだろうか……。
(まあ、〝あしながおじさん〟に甘えるのが苦手だったのは、秘書の久留島さんがどんな人なのか分かんなかったからっていうのもあるけど。電話で話した感じでは、すごく優しくていい人そうだったし。……そうだ!)
純也さんはバレンタインデーに「田中さんの分の贈り物は要らない」と言っていた。それなら、秘書の久留島さんに贈るというのはどうだろう?



