拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】

 ――愛美の高校二年生の冬休みは、大好きな純也さんとのステキな思い出を山ほど残して過ぎていった。
 そして迎えた三学期――。


「――愛美、今日は午後から部活行くの?」

「うん。部室に自分のパソコン持ち込んで、原稿書こうと思って。さやかちゃんと珠莉ちゃんは?」

陸上部(ウチ)は始業式恒例のミーティングだけ。あたし、部長になったからさ。茶道部(珠莉んとこ)は?」

「今日から活動があるわよ。新春茶会なの」

 始業式とH.R.(ホームルーム)が終わった後の、ランチタイムの食堂である。今日は三人とも制服姿だ。

「そういや、愛美も四月から部長になるんだっけ?」

「うん。わたし、二年生から入部したのにいいのかなぁって遠慮したんだけど。どうしてもって言われて」

「それで引き受けたんだ? そういうお人好しなところが愛美らしいっちゃらしいんだけどさぁ」

 今日の昼食のメニューはポークジンジャー定食。スープはミネストローネでサラダにはプチトマトが入っているけれど、トマト嫌いの珠莉はプチトマト抜きで、スープもポタージュに変えてもらっている。

「それ、褒めてる? 貶してる?」

「もちろん褒めてるんだよ? あたし、人のこと貶すのキライだもーん」

 さやかは澄まし顔でそう言って、ごはんをかき込んだ。

「――で、愛美。好きな人と過ごした年末年始はどうだった?」

「クリスマスと大晦日に純也さんとデートして、……あ、これは小説を書き始めるための取材でもあったんだけど。年越しは彼のお部屋で、二人で紅白と音楽番組観てね。新しい年を迎えた瞬間、彼にキスされた」

 愛美はあの時のドキドキを思い出して、ちょっぴり頬を染めた。
 何度キスを経験しても、なかなか慣れるものではない。ポーカーフェイスなんてしていられない。

「あらあら♡ 可愛いじゃん♪ いいなぁ、彼氏と二人で年越しなんて」

「えへへ、まあね。さやかちゃんは今年もご家族と、でしょ」

「うん。あたしはまだ当分、恋愛とは無縁かなぁ。――あ、そういやお兄ちゃんのスマホに珠莉からあけおメッセージ来てたよ。あたし、無理やりスクショ送らせたんだ」

「……さやかちゃん、プライバシーは?」

「そんなの、ウチの兄妹間には存在しないから。ほら、見て見て」

 とんでもなく失礼な発言をしたさやかは、兄に送らせたメッセージのスクリーンショットを表示させ、愛美にスマホの画面を見せた。


『治樹さん、明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いいたします。』


『珠莉ちゃん、固い固い(笑)
 こちらこそ明けましておめでとー。今年もよろしく。
 オレ、就活ガンバって、珠莉ちゃんの相手にふさわしい男になるぜ!!』


「……あらあら、これは――」

「ね? これってさ、珠莉がウチのお兄ちゃんに脈アリってことじゃんね?」

 このやり取りを見る限り、治樹さんも少なからず珠莉のことを好ましく思っているようだ。二人がカップルになるのも時間の問題かもしれない。

「お……っ、お二人とも! 私をネタにして遊ばないで下さる!?」

「えー? いいじゃん。あたしたちはアンタの恋を応援してるだけなんだしさ。ね、愛美?」

 勝手に自分の話題で盛り上がっている親友二人に、珠莉が吠えた。でも、さやかも愛美も少しも動じない。

「うん。純也さんも背中押してくれると思うよ。珠莉ちゃん、まだ治樹さんにハッキリ気持ち伝えてないでしょ? 来月はバレンタインデーもあることだし、わたしとさやかちゃんと三人で手作りチョコ、頑張ってやってみない?」

「あ、それいい! 当然、愛美も純也さんにあげるつもりなんだよね?」

「もちろん! あとね、もう一つプレゼントも用意しようと思って。わたし、去年はインフルエンザで倒れてそれどころじゃなかったから」

「あー、そういえばそうだったね。寮母の晴美さん、毎年寮生にチョコ配ってるらしくてさ。あたしと珠莉も去年もらったんだけど、愛美の分は『食欲ないだろうから』って断ったんだよね」

「えー、そうだったの? 惜しいことしたなぁ。熱さえ出さなきゃもらえたのに」

 あの時、「〝あしながおじさん〟に見限られたかもしれない」とネガティブになっていたことも、お見舞いに届いたフラワーボックスと手書きのメッセージに大泣きしたことも、今となっては思い出だ。

(あの頃はまだ、純也さんがおじさまだって知らなかったもんなぁ。今考えたら、あの人がわたしを見限るなんてあり得ないのに。だって彼、わたしにベタ惚れしてるんだもん)

 純也さんのことを考えていて、思い出した。

「あ、そういえば純也さん、バレンタインデーにまたここに遊びに来るって言ってたよ」

「えっ、マジ? わざわざ愛美からチョコもらうために来るワケ?」

「うん、それもあるけどね。なんか、わたしたち三人にチョコをくれるつもりみたい」

「え、やった♪ 純也さん、マジいい人!」

 チョコと聞いて、やっぱり大のチョコ好きのさやかは大喜びした。

「さやかちゃんのチョコ好きは本物だね。わたしと純也さんが予想した通りの反応してくれるんだもん」

「だって、あの人がここに来たら毎回チョコ系のスイーツ食べられるじゃん。もう、チョコ大好きなあたしにとってはもはや神だね」

「神……」

「あ、でも愛美から横取りしようなんて思わないから安心してね。あたしにとって純也さんは、親友のステキな歳上の彼氏で、もう一人の親友の叔父さんでしかないから。恋愛対象としてはちょっと年離れすぎてるし」

「うん、分かった。ありがと」

 とりあえず、さやかと修羅場にはならなそうなので愛美は安心した。