(……まあ、でもあの時はまだ両想いになったばっかりだったし、わたしもまだ緊張してたからなぁ。今はだいぶ〝彼女〟らしくなってきたっていうか、彼女ってことに慣れてきたから)
純也さんと二人きりで過ごすことにもあまり抵抗がなくなってきたのは、彼のことをちゃんと信用できるようになったからだと思う。
「ちゃんと部屋は暖房つけて暖かくしておくし、あったかい飲み物も用意しとく。夜はもっと寒くなりそうだから。せっかくの年末の風物詩だし、ひとりで観るのは淋しいからさ」
「うん、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
今年の年越しは、大好きな純也さんと二人で迎えることになった。こんなに嬉しくてドキドキするようなことを、一年前はどうやって想像できただろう!
* * * *
その日の夕食後――これもごく普段通りのメニューだった――、愛美は自分の部屋で入浴を済ませてから紅白歌合戦が始まるまでの時間、原稿の執筆に勤しんでいた。
そこへ、担当編集者の岡部さんからスマホにメールが届いて……。
『相川先生、執筆は進んでますか?
プロット拝見しました。大変面白そうな内容になりそうで楽しみですが、可能であればそこにヒーローのロマンス要素も盛り込んで頂けると……。
無理にとは言いませんが、検討のほどよろしくお願いします。』
「――ロマンス要素……っていうと、相手はわたし……ってわけにはいかないよなぁ」
読んだ愛美はう~んと唸った。
現実で、主人公のモデルとなっている純也さんの恋人は愛美だけれど。それをそっくりそのまま小説の中でまでやるわけにもいかない。自分たちは好き同士で交際しているから年齢差なんて気にしてはいないけれど、さすがに世間的にはどう見られるのか分かったものじゃないから。
でも、ヒロインの年齢だけ引き上げて、設定はそのままそこに落とし込めば……。
たとえば、純也さんが愛美のことを好きになってくれた理由――家柄やステータスなんて関係なく、彼という人柄を好きになったということ自体は使えそうな設定ではある。
「……うん、よし。これでいこう!」
愛美はすぐ、「ロマンス要素は盛り込む方向で進めていきます」とメールの返信をして、またキーボードを叩き始めた。
そして七時十五分ごろ、キリのいいところまで書けた時点で原稿ファイルを保存してパソコンを閉じ、スマホを持って純也さんの部屋へ行った。服装は部屋に戻ってきたらすぐに寝られるようパジャマ姿で、上からカーディガンを羽織っている。
「――純也さん、愛美です。入ってもいい?」
「どうぞ。ちょうどいいタイミングで来たね。もうすぐ始まるよ」
「おジャマしまーす」
純也さんの部屋に入るのはクリスマスイブの夕方以来である。あの時は珠莉も一緒だったし、彼女の相談事がメインだったので部屋の中を見回す余裕がなかったけれど。
彼の部屋の中はかなり世俗的なもの――TVだったりスピーカーだったり、ゲーム機だったり――があって、そのうえでゴチャゴチャはしておらずキチンんと片付いていることが分かった。
そして、ちゃんと暖房が効いていて暖かい。
「愛美ちゃん、ソファーにどうぞ。ここがTVを見る時の特等席なんだ。ホットココアも用意してあるからね。ちなみに由乃さんじゃなく、俺が自分で用意したんだよ」
愛美は純也さんに勧められたソファーに座り、魔法瓶から注がれたホットココアのカップを受け取った。その隣りに、同じようにカップを持った純也さんが腰を下ろし、リモコンでTVのチャンネルを変えた。
「えっ、純也さんが自分で? 由乃さんに怒られなかったの?」
「怒られたねー。『おっしゃって頂ければ、私が用意致しましたのに!』って。でも、俺の個人的な事情で頼むのはなんか申し訳なくて。俺、この家では居候みたいなものだから」
「〝居候〟って……」
彼が自虐的に言ったので、愛美は思わず絶句した。でも、普段は別のところで一人暮らしをしていて、実家にはめったに寄りつかないのなら似たようなものかもしれない。
(……まあ、わたしが純也さんと同じ立場でも、こんな家にはあんまり帰って来たくないかも)
初めてこの家を訪れた愛美でさえそう思うのだから、この家で生まれ育った純也さんは余計にそうだろう。
「……あ、愛美ちゃん。始まるよ」
TVではニュースが終わり、年に一度の華やかな歌の祭典がスタートした。
この番組は前半戦が終わった夜九時ごろ、ニュースが挟まる。
「――愛美ちゃん、ココアのお代わりいる?」
「あ、ありがとう! 純也さん、小腹がすいてたら、わたしの部屋からお菓子取ってくるよ。クリスマスに純也サンタからもらったの、まだ余ってて」
「サンキュ、愛美ちゃん」
というわけで愛美は一旦部屋に戻り、焼き菓子セットの箱を持って純也さんの部屋へ取って返した。
中身はまだかなり残っている。一人では食べきれないというのもあるけれど、「こんなに高そうなお菓子、食べちゃうのがもったいない!」というのが愛美の正直なところである。
「――おかえり、愛美ちゃん。まだ後半戦始まってないよ。ギリギリセーフ」
「よかった、間に合って! これ、お菓子ね」
二人はローテーブルに置いた焼き菓子をつまみ、ココアを飲みながらまたTV画面を見つめる。愛美の好きなアーティストがたまたま後半戦に固まっているので、前半戦よりも真剣に見入ってしまっているのだ。
純也さんと二人きりで過ごすことにもあまり抵抗がなくなってきたのは、彼のことをちゃんと信用できるようになったからだと思う。
「ちゃんと部屋は暖房つけて暖かくしておくし、あったかい飲み物も用意しとく。夜はもっと寒くなりそうだから。せっかくの年末の風物詩だし、ひとりで観るのは淋しいからさ」
「うん、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」
今年の年越しは、大好きな純也さんと二人で迎えることになった。こんなに嬉しくてドキドキするようなことを、一年前はどうやって想像できただろう!
* * * *
その日の夕食後――これもごく普段通りのメニューだった――、愛美は自分の部屋で入浴を済ませてから紅白歌合戦が始まるまでの時間、原稿の執筆に勤しんでいた。
そこへ、担当編集者の岡部さんからスマホにメールが届いて……。
『相川先生、執筆は進んでますか?
プロット拝見しました。大変面白そうな内容になりそうで楽しみですが、可能であればそこにヒーローのロマンス要素も盛り込んで頂けると……。
無理にとは言いませんが、検討のほどよろしくお願いします。』
「――ロマンス要素……っていうと、相手はわたし……ってわけにはいかないよなぁ」
読んだ愛美はう~んと唸った。
現実で、主人公のモデルとなっている純也さんの恋人は愛美だけれど。それをそっくりそのまま小説の中でまでやるわけにもいかない。自分たちは好き同士で交際しているから年齢差なんて気にしてはいないけれど、さすがに世間的にはどう見られるのか分かったものじゃないから。
でも、ヒロインの年齢だけ引き上げて、設定はそのままそこに落とし込めば……。
たとえば、純也さんが愛美のことを好きになってくれた理由――家柄やステータスなんて関係なく、彼という人柄を好きになったということ自体は使えそうな設定ではある。
「……うん、よし。これでいこう!」
愛美はすぐ、「ロマンス要素は盛り込む方向で進めていきます」とメールの返信をして、またキーボードを叩き始めた。
そして七時十五分ごろ、キリのいいところまで書けた時点で原稿ファイルを保存してパソコンを閉じ、スマホを持って純也さんの部屋へ行った。服装は部屋に戻ってきたらすぐに寝られるようパジャマ姿で、上からカーディガンを羽織っている。
「――純也さん、愛美です。入ってもいい?」
「どうぞ。ちょうどいいタイミングで来たね。もうすぐ始まるよ」
「おジャマしまーす」
純也さんの部屋に入るのはクリスマスイブの夕方以来である。あの時は珠莉も一緒だったし、彼女の相談事がメインだったので部屋の中を見回す余裕がなかったけれど。
彼の部屋の中はかなり世俗的なもの――TVだったりスピーカーだったり、ゲーム機だったり――があって、そのうえでゴチャゴチャはしておらずキチンんと片付いていることが分かった。
そして、ちゃんと暖房が効いていて暖かい。
「愛美ちゃん、ソファーにどうぞ。ここがTVを見る時の特等席なんだ。ホットココアも用意してあるからね。ちなみに由乃さんじゃなく、俺が自分で用意したんだよ」
愛美は純也さんに勧められたソファーに座り、魔法瓶から注がれたホットココアのカップを受け取った。その隣りに、同じようにカップを持った純也さんが腰を下ろし、リモコンでTVのチャンネルを変えた。
「えっ、純也さんが自分で? 由乃さんに怒られなかったの?」
「怒られたねー。『おっしゃって頂ければ、私が用意致しましたのに!』って。でも、俺の個人的な事情で頼むのはなんか申し訳なくて。俺、この家では居候みたいなものだから」
「〝居候〟って……」
彼が自虐的に言ったので、愛美は思わず絶句した。でも、普段は別のところで一人暮らしをしていて、実家にはめったに寄りつかないのなら似たようなものかもしれない。
(……まあ、わたしが純也さんと同じ立場でも、こんな家にはあんまり帰って来たくないかも)
初めてこの家を訪れた愛美でさえそう思うのだから、この家で生まれ育った純也さんは余計にそうだろう。
「……あ、愛美ちゃん。始まるよ」
TVではニュースが終わり、年に一度の華やかな歌の祭典がスタートした。
この番組は前半戦が終わった夜九時ごろ、ニュースが挟まる。
「――愛美ちゃん、ココアのお代わりいる?」
「あ、ありがとう! 純也さん、小腹がすいてたら、わたしの部屋からお菓子取ってくるよ。クリスマスに純也サンタからもらったの、まだ余ってて」
「サンキュ、愛美ちゃん」
というわけで愛美は一旦部屋に戻り、焼き菓子セットの箱を持って純也さんの部屋へ取って返した。
中身はまだかなり残っている。一人では食べきれないというのもあるけれど、「こんなに高そうなお菓子、食べちゃうのがもったいない!」というのが愛美の正直なところである。
「――おかえり、愛美ちゃん。まだ後半戦始まってないよ。ギリギリセーフ」
「よかった、間に合って! これ、お菓子ね」
二人はローテーブルに置いた焼き菓子をつまみ、ココアを飲みながらまたTV画面を見つめる。愛美の好きなアーティストがたまたま後半戦に固まっているので、前半戦よりも真剣に見入ってしまっているのだ。



