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――その日の夕食も、愛美は純也さんと珠莉と三人だけで、二階のセカンドダイニングで摂ることになった。
「ウチの他の連中は、食事のマナーとかにいちいちうるさいから。一緒のテーブルを囲むのは愛美ちゃんにとってストレスになると思うんだ」
との純也さんの計らいで、毎食そうすることになったのだという。もちろん、愛美にも異存はなかったので、彼のその提案をありがたく受け入れることにした。
「――で、お二人とも。今日のデートはどうでしたの? 充分に楽しめまして?」
この三人ならマナーを気にしなくていいので、食事中もお喋りが弾む。
珠莉が親友と叔父のカップルに、初デートの感想を訊ねた。
「うん、楽しかったよ。純也さんに色んな面白いところに連れていってもらえて、写真もいっぱい撮ってきた。あと、初めてアフタヌーンティーも体験してきたの」
「あら、よかったわねえ」
「俺も、久しぶりに愛美ちゃんと一日ずっと一緒に過ごせて楽しかった。まだ連れて行けてないところがいくつもあるのが残念だけどな」
「わたしも、ソラマチは行きたかったなぁ。でも、これで小説の大体のイメージは掴めたから、いよいよ執筆に入れるよ」
「そう。頑張ってね。……私も頑張らなきゃ」
「……ん?」
「え? 珠莉ちゃん、『頑張らなきゃ』って何を?」
珠莉が自分に言い聞かせるようにポツリと言った一言に、愛美も純也さんも首を傾げた。
「……純也叔父さま、私、この後お父さまとお母さまに自分の夢について打ち明けようと思いますの。お願いですからついてきて下さいません?」
「分かった。一緒に行ってやろう」
「ありがとうございます、叔父さま」
「そっか、いよいよだね。珠莉ちゃん、頑張って! わたしは一緒についていけないけど、応援してるからね!」
「ええ。ありがとう、愛美さん」
珠莉は愛美にもお礼を言った。その決意を秘めた笑顔には、初めて会った頃のつっけんどんな彼女の面影はどこにも見当たらない。
(わたしが夢を叶えて、今度は珠莉ちゃんの番! ご両親の説得、純也さんと一緒に頑張ってほしいな……)
「……珠莉、変わったな。どうやら愛美ちゃんからいい影響を受けてるらしい」
「うん。もしホントにそうだったら、わたしも嬉しいな。――純也さん、珠莉ちゃんの援護射撃よろしくね」
「ああ、もちろん!」
* * * *
――部屋に戻った愛美は、スマホで今日撮った写真をスクロールしてイメージを膨らませながら、初の長編小説のプロットを作り始めた。
「……よし、大まかなプロットはできた。あとは……、難しいのはこれをどれくらいのページに収めるかだなぁ」
編集者の岡部さん曰く、長編を書くにあたっていちばん苦労するのはページ配分らしい。
「とりあえず、書き始めれば何とかなるかな。でも、その前に……おじさまに手紙書こう」
手紙を受け取る相手が、今宛て先の住所にいないことは分かっている。だって、〝彼〟はこの屋敷にいるのだから。
それでも、愛美はけじめとして手紙を出すことにしたのだ。
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『拝啓、あしながおじさん。
昨日からの連投、失礼します。今日の純也さんとの初デートがあまりにも楽しかったので……。
もちろん、ちゃんと取材もしてきましたよ。写真もいっぱい撮ってきました。
まず最初に、彼はわたしを銀座に連れていってくれました。わたし、銀座って大人の楽しむ街だと思ってたんです。でも全然そんなことなくて、まだ高校生のわたしと、大人だけどまだ若い純也さんも充分楽しめました。
銀座の街で最初に見たのは、有名な和光ビルの時計台。「この時計台は、有名な怪獣映画で壊されたことがあるんだよ」って純也さんが冗談半分で教えてくれました。もちろん、壊されたのは映画のセットなんですけど(笑) それくらい、わたしにだって分かります。
そしてわたし、その怪獣映画観たことない……。
それはともかく、わたしは純也さんを主人公のイメージモデルにして、色んなところで写真を撮りました。GINZA6、ブランドショップ街、オシャレなファッションビルにストリートピアノの前……。
それでわたし、撮影しながら思ったの。やっぱり純也さんはこの街の景色が似合うなぁ、って。やっぱり彼はセレブなんだな、って。そしてやっぱり、この小説の主人公は純也さんで間違いないなって確信しました。
その後は浅草に行って、浅草寺にお参りしました。仲見世通りもブラブラして、そこでもイメージショットを撮影しました。
あと、合羽橋の道具屋筋も見て回って、早めにランチを摂りました。純也さんから「軽めにしよう」って言われたので、バーガーショップで彼はハンバーガーとポテトのセット、わたしはチーズバーガーとポテトのセットを食べました。
純也さんは生まれながらのセレブだけど、ハンバーガーとかクレープみたいなジャンキーな食べ物も好きみたい。そういう気取りのないところがわたしは好きなんですけど。
純也さんってば、食べてる最中に口の横にケチャップがついてるのに、わたしに拭いてほしかったからってわざと自分で拭かなかったの! まるで子供みたいに世話が焼けるんだから! でも、彼のそういうところ、なんか可愛いなって思っちゃいました(笑)
ランチの後は日本橋に行って、翼のある麒麟像も見てきました。この麒麟像は、東野圭吾さんの『麒麟の翼』っていうミステリー小説にも登場します。これは日本橋署の刑事さんが主人公のシリーズの中の一作で、映画にもなってます。純也さんも好きみたいで、わたしは映画は観たことないけど原作は好きなので、映画版も観てみたいなって思いました。
そしてその後、純也さんが「ランチは軽めにしよう」って言った理由が明らかになりました。なんと、わたしのために帝国ホテルのアフタヌーンティーを予約してくれてたの!
優雅なホテルのレストランで味わうスイーツに、初めて食べたスコーン……。まさに非日常の時間がそこでは流れてました。だからわたし、そこでは写真を撮らなかったの。本当は忘れてただけなんですけど、これは純也さんからわたしへのごほうびなんだって思うことにしたんです。
最後は東京スカイツリーの天望デッキに上がって、今日のデート兼取材は終わりました。
わたしね、おじさまと純也さんにいくつも共通点があることに気づきました。
純也さんもお金持ちだし、背が高いし、女性不信なんです。で、おじさまと同じNPO法人で支援活動をしてるでしょ? ここまで偶然って重なるものかな……。
でも、多分本当に偶然なの。……って思うことにしました。
最後に、今夜珠莉ちゃんが純也さんと一緒に、モデルを目指してることをご両親に打ち明けに行ってます。
わたしも説得がうまく行くように、陰ながら応援してます。きっとうまく行くはず。だって、純也さんが援護射撃してくれてるはずだから!
じゃあまた。おじさま、メリークリスマス! そしてよいお年を。
かしこ
十二月二十五日 愛美 』
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