「……そういえば愛美ちゃん、ここでは写真撮らなくてよかったの?」
「あ、忘れてた!」
純也さんに言われて気がついた。今日は行く先々で、取材として写真を撮っていたのに。ティータイムを楽しむのに夢中になって、すっかり頭の中からスッポリ抜け落ちていたのだ。
「でもいいの。このアフタヌーンティーは予定外の時間だったし、自分へのごほうびタイムだと思って取材は抜きってことにするから」
もし、ここも「取材だ」と割り切っていたら、こんなに楽しめなかっただろうから。愛美もここは純粋に「デートだ」と思って、心から楽しむことにしたことにする。
……ただ、SNSにアップするためになら写真を撮っておいてもよかったかな、と思ったり。
「っていうか、純也さんってここでも目立ってるね。イケメンだし背が高いから」
「……ん? そうかな?」
彼は気にしていないようだけれど、二人のテーブルの周りにいる女性客たちがみんなザワついているのだ。モデル並みの容姿を持つこのイケメンは一体何者かしら、と。
(そして、そのイケメンとふたりでお茶してるわたしは、彼の何だと思われてるんだろう……)
少なくとも恋人だとは思われていないだろう。親戚とか、そんなふうにしか見えないかもしれない。
「でも俺は、君以外は眼中にないから。愛美ちゃんも周りからどう見られてるかなんて気にしなくていい。君が俺の恋人であることに間違いはないんだからね」
「あ……、うん。そうだよね」
周りからどう見えるかが気になるのは、愛美自身が「純也さんとわたしは釣り合っていないんじゃないか」と気にしているからだ。
(愛美、純也さんの言う通りだよ。そんなの気にしちゃダメ! 彼が本気で好きになってくれたのはあなただけなんだから、もっと自信持たないと!)
「こんなに非日常が味わえる時間、周りの目なんか気にしてたら楽しめないよね。よし、ここにいるのはわたしと純也さんと、給仕の人だけ。他の人たちの存在は忘れちゃおう!」
「はははっ! 愛美ちゃん、それはいくら何でもオーバーじゃないか?」
「そうかなぁ?」
純也さんは笑うけれど、そのおかげで場の空気が和み、愛美はこの非日常の空間での時間を心から楽しむことができた。
* * * *
ラグジュアリーな空間でのんびりお茶を楽しみ、愛美と純也さんはお腹も心も満たされた。
二人はクロークでコートとバッグを受け取り、レストランを出た。
「な? 昼食軽めにしてよかったろ?」
「うん、ホントにね」
支払いは純也さんが二人分もってくれた。
ここのアフタヌーンティーの料金はかなり高額で、一人分でも六千円以上かかる。さすがにこの金額は、高校生がお小遣いで支払える額の範囲を超えている。
(純也さん、どっちで支払ったんだろう? ブラックカード? それとも現金で?)
「――お待たせ! 支払い済んだから出よう」
首を傾げている愛美のところへ、ホテルのフロントから純也さんが戻ってきた。
「はーい。――ね、純也さん。支払いは現金とカード、どっちで?」
「ここはカードで。ブラックカードってね、ホントはあちこちでひけらかすようなものじゃないんだけどさ。ホテルのフロントではカード払いの方が楽っちゃ楽なんだよな」
「…………ほぇー」
愛美はそう言われてもピンと来なくて、間の抜けた声を出すしかなかった。
* * * *
帝国ホテルを出ると、日が傾き始めていた。
二人は車で、今日の最終目的地である東京スカイツリーへ行った。
ここは全長六百三十四メートルという、世界一の高さを誇る電波塔である。
タワーの下には〈東京ソラマチ〉という複合施設があって、そこにはショッピングモールや水族館も入っている。
「――わぁ……、キレイな夕日……」
ここの入場チケットも純也さんが買ってくれて、二人はエレベーターで天望デッキへ上がった。
ガラス張りの窓の外には東京の街並みが広がっていて、西の空にはちょうど日が沈みかけている。
「ちょうどいい時間に来られたな。もう少し暗くなってからだと、ここから見える東京の夜景がキレイなんだけど……。さすがにそんな遅い時間までは高校生を連れ歩けないから」
「う~ん、キレイな夜景を見られないのは残念だけど。この夕焼けが見られただけでも、今日は来た価値はあるかな。純也さん、連れてきてくれてありがとう」
愛美は彼にお礼を言い、スマホで夕日の写真を撮った。
「俺のイメージショットは要らないの?」
「うん。ここは小説に登場させるかどうかまだ決めてないから。あの夕日だけでも記念に撮っておきたくて」
「……そっか」
「でも、今日一日あちこち見て回ったおかげで、ある程度は小説のイメージが固まったよ。これでやっと書き始められそう」
「そっか。役に立てたみたいでよかった」
とりあえず、取材はこれで終了。あとは純粋にデートを楽しむだけだ。
「――ねえ、純也さん。わたしがどうして純也さんのことを好きになったか分かる?」
手すりにもたれかかりながら、愛美は隣りに立つ彼に訊ねる。この恋が始まったキッカケを、彼に打ち明けたことは今までなかった。
「……いや、分からないな。教えてくれるかい?」
「純也さん、初めて学校を案内した時に、わたしの名前を褒めてくれたでしょ? あと、会ったこともないわたしの両親のことも。だからわたし、純也さんのこと好きになったんだよ」
「あ、忘れてた!」
純也さんに言われて気がついた。今日は行く先々で、取材として写真を撮っていたのに。ティータイムを楽しむのに夢中になって、すっかり頭の中からスッポリ抜け落ちていたのだ。
「でもいいの。このアフタヌーンティーは予定外の時間だったし、自分へのごほうびタイムだと思って取材は抜きってことにするから」
もし、ここも「取材だ」と割り切っていたら、こんなに楽しめなかっただろうから。愛美もここは純粋に「デートだ」と思って、心から楽しむことにしたことにする。
……ただ、SNSにアップするためになら写真を撮っておいてもよかったかな、と思ったり。
「っていうか、純也さんってここでも目立ってるね。イケメンだし背が高いから」
「……ん? そうかな?」
彼は気にしていないようだけれど、二人のテーブルの周りにいる女性客たちがみんなザワついているのだ。モデル並みの容姿を持つこのイケメンは一体何者かしら、と。
(そして、そのイケメンとふたりでお茶してるわたしは、彼の何だと思われてるんだろう……)
少なくとも恋人だとは思われていないだろう。親戚とか、そんなふうにしか見えないかもしれない。
「でも俺は、君以外は眼中にないから。愛美ちゃんも周りからどう見られてるかなんて気にしなくていい。君が俺の恋人であることに間違いはないんだからね」
「あ……、うん。そうだよね」
周りからどう見えるかが気になるのは、愛美自身が「純也さんとわたしは釣り合っていないんじゃないか」と気にしているからだ。
(愛美、純也さんの言う通りだよ。そんなの気にしちゃダメ! 彼が本気で好きになってくれたのはあなただけなんだから、もっと自信持たないと!)
「こんなに非日常が味わえる時間、周りの目なんか気にしてたら楽しめないよね。よし、ここにいるのはわたしと純也さんと、給仕の人だけ。他の人たちの存在は忘れちゃおう!」
「はははっ! 愛美ちゃん、それはいくら何でもオーバーじゃないか?」
「そうかなぁ?」
純也さんは笑うけれど、そのおかげで場の空気が和み、愛美はこの非日常の空間での時間を心から楽しむことができた。
* * * *
ラグジュアリーな空間でのんびりお茶を楽しみ、愛美と純也さんはお腹も心も満たされた。
二人はクロークでコートとバッグを受け取り、レストランを出た。
「な? 昼食軽めにしてよかったろ?」
「うん、ホントにね」
支払いは純也さんが二人分もってくれた。
ここのアフタヌーンティーの料金はかなり高額で、一人分でも六千円以上かかる。さすがにこの金額は、高校生がお小遣いで支払える額の範囲を超えている。
(純也さん、どっちで支払ったんだろう? ブラックカード? それとも現金で?)
「――お待たせ! 支払い済んだから出よう」
首を傾げている愛美のところへ、ホテルのフロントから純也さんが戻ってきた。
「はーい。――ね、純也さん。支払いは現金とカード、どっちで?」
「ここはカードで。ブラックカードってね、ホントはあちこちでひけらかすようなものじゃないんだけどさ。ホテルのフロントではカード払いの方が楽っちゃ楽なんだよな」
「…………ほぇー」
愛美はそう言われてもピンと来なくて、間の抜けた声を出すしかなかった。
* * * *
帝国ホテルを出ると、日が傾き始めていた。
二人は車で、今日の最終目的地である東京スカイツリーへ行った。
ここは全長六百三十四メートルという、世界一の高さを誇る電波塔である。
タワーの下には〈東京ソラマチ〉という複合施設があって、そこにはショッピングモールや水族館も入っている。
「――わぁ……、キレイな夕日……」
ここの入場チケットも純也さんが買ってくれて、二人はエレベーターで天望デッキへ上がった。
ガラス張りの窓の外には東京の街並みが広がっていて、西の空にはちょうど日が沈みかけている。
「ちょうどいい時間に来られたな。もう少し暗くなってからだと、ここから見える東京の夜景がキレイなんだけど……。さすがにそんな遅い時間までは高校生を連れ歩けないから」
「う~ん、キレイな夜景を見られないのは残念だけど。この夕焼けが見られただけでも、今日は来た価値はあるかな。純也さん、連れてきてくれてありがとう」
愛美は彼にお礼を言い、スマホで夕日の写真を撮った。
「俺のイメージショットは要らないの?」
「うん。ここは小説に登場させるかどうかまだ決めてないから。あの夕日だけでも記念に撮っておきたくて」
「……そっか」
「でも、今日一日あちこち見て回ったおかげで、ある程度は小説のイメージが固まったよ。これでやっと書き始められそう」
「そっか。役に立てたみたいでよかった」
とりあえず、取材はこれで終了。あとは純粋にデートを楽しむだけだ。
「――ねえ、純也さん。わたしがどうして純也さんのことを好きになったか分かる?」
手すりにもたれかかりながら、愛美は隣りに立つ彼に訊ねる。この恋が始まったキッカケを、彼に打ち明けたことは今までなかった。
「……いや、分からないな。教えてくれるかい?」
「純也さん、初めて学校を案内した時に、わたしの名前を褒めてくれたでしょ? あと、会ったこともないわたしの両親のことも。だからわたし、純也さんのこと好きになったんだよ」



