純也さんに相談する決意を固めた珠莉は、愛美のメイクを進めた。
両瞼の上に淡いピンク色のシャドウを乗せ、指先でぼかす。下瞼にはポッテリとした涙袋を作り、可愛らしい目元に仕上げていく。
「愛美さんはお肌もキレイだし、元がいいからお化粧映えがしそうね」
アイシャドウと同じ色のチークを頬に乗せながら、珠莉が愛美の肌や顔立ちを褒める。
「え……、そうかな? わたし、お肌の手入れとか特になんにもしてないんだけど」
「それはきっと、あなたの内面から出てくる美しさね。叔父さまと恋愛をしていて幸せホルモンが出てるから。あと、夢を叶えて生き生きと毎日を楽しく過ごしているから、かしら」
「……なるほど」
毎日鏡で自分の顔を見ていても、その美しさに気づけなかったのはきっと、すぐ身近に珠莉という自分よりもキレイな存在がいるから。ついつい彼女と自分を比べては、「わたしは珠莉ちゃんほど美人じゃないし……」と自分を下に見てしまっていたんだろう。
「愛美さん、自分に自信を持つことは、自分の美しさを素直に受け入れることから始まるのよ。まずは叔父さまに、キレイなあなたを見てもらいましょうね」
「うん」
「それじゃ、リップを整えるから、ちょっとお喋りはストップしていましょうね」
愛美が口を閉じると、珠莉がリップブラシを使って丁寧に口紅を塗っていく。選んだ色はチェリーピンク。少し派手めな色だと愛美は思ったけれど、パーティー用のメイクならこれくらいでちょうどいいのかもしれない。
さらにその上から別のリップブラシでグロスを乗せられ、珠莉の手によるメイクアップは完了した。
「――はい、終わりましたわ。鏡をご覧なさい」
「…………わぁ……っ! これ、ホントにわたし……? 別人みたい」
ドレッサーの鏡に映るのは、普段見慣れた愛美とはまったく違う女の子の顔だった。
「ね、お化粧ひとつで変わるものでしょう? じゃあ交代して下さる? 私もヘアメイクしたいから」
「ああ……、うん」
愛美が交代すると、珠莉はこれまた手早く自分の髪型やメイクを整えていく。それは愛美にしてくれたような手の込んだものではなく、わりと簡単なものだった。
襟巻きを着け、ハンカチとポケットティッシュなど最低限の小物を入れたクラッチバッグを持って準備万端整った愛美に、珠莉は自分のヘアメイク完了を告げる。
「……ま、私のはこんなものでいいでしょう」
「えっ、珠莉ちゃんはそんな適当でいいの? わたしはこんなに可愛くしてくれたのに」
「ええ、いいの。私はどちらかというとホスト側だもの。さ、純也叔父さまのお部屋へ行くわよ」
「うん。純也さんも着替え終わってるといいんだけど」
珠莉の部屋を出た二人は長い廊下を進んでいき、突き当たりの角部屋のドアをノックした。ここが純也さんの部屋である。
「――はい?」
「純也さん、愛美です。珠莉ちゃんも一緒なんだけど。今、おジャマして大丈夫? もう着替えって済んでる?」
「ああ、大丈夫だよ。どうぞ」
「――だって。珠莉ちゃん、ほら」
純也さんの返事を聞いてから、愛美は珠莉に入室を促した。
「おジャマしまーす」
「叔父さま、失礼します」
「二人とも、どうした?」
二人を迎え入れてくれた純也さんは、ボルドー色のスーツにグレーのカラーシャツ、紺色のネクタイというスタイルだった。
(わ……! やっぱり純也さんのスーツ姿、カッコいい……!)
「……叔父さま、またそんなキザったらしい格好を」
一人ときめいている愛美とは逆に、珠莉は叔父の独特なカラーセンスに呆れて一言物申さずにはいられなかったらしい。
「珠莉、お前はわざわざ俺にそんなことを言いに来たんじゃないだろ」
「ああ……、そうでした。つい口が滑ってしまって」
「あのね、純也さん。珠莉ちゃんがちょっと、純也さんに相談に乗ってほしいことがあるんだって」
珠莉も自分からは言い出しにくいだろうと思い、愛美が先に助け舟を出してあげた。
「俺に……相談? 珠莉、言ってごらん?」
「ええ……。叔父さま、実は私――」
珠莉は叔父に、将来モデルになりたいという夢があること、それを両親には猛反対されそうだから打ち明ける勇気がないことを話した。
「――私も半ば諦めかけていましたの。でも愛美さん、さやかさんとお友だちになって、あと叔父さまにも感化されて。やっぱり諦めきれなくて、本気で目指そうと思うようになりましたの。ただ……、お父さまとお母さまにはまだ打ち明ける勇気が出なくて……。叔父さまが味方について下さったら、私も話しやすくなると思うんですけど」
一言も口を挟まず、うんうんと頷きながら話を聞いてくれた純也さんが、珠莉の話が終わったタイミングで口を開いた。
「一つだけ確認させてもらうけど。珠莉、お前は本気でモデルを目指すつもりでいるんだな?」
「ええ、もちろん本気です」
「……分かった。お前が本気なら、俺も全力でお前の夢を応援するよ。お前が兄さんとお義姉さん――両親に打ち明ける時にも、俺が援護射撃してやるから。そこは信用してくれ」
「……ええ! 叔父さま、ありがとうございます! 私、必ず叔父さまの恩に報いるようなモデルになりますわ!」
「わたしからもありがとう、純也さん!」
(やっぱり純也さんは、夢を追う子供を放っておけない優しい人なんだ。わたしやリョウくんだけじゃなくて珠莉ちゃんのことも)
だからこそ、〈わかば園〉のような児童養護施設にも援助を惜しまないのだと愛美は思った。
両瞼の上に淡いピンク色のシャドウを乗せ、指先でぼかす。下瞼にはポッテリとした涙袋を作り、可愛らしい目元に仕上げていく。
「愛美さんはお肌もキレイだし、元がいいからお化粧映えがしそうね」
アイシャドウと同じ色のチークを頬に乗せながら、珠莉が愛美の肌や顔立ちを褒める。
「え……、そうかな? わたし、お肌の手入れとか特になんにもしてないんだけど」
「それはきっと、あなたの内面から出てくる美しさね。叔父さまと恋愛をしていて幸せホルモンが出てるから。あと、夢を叶えて生き生きと毎日を楽しく過ごしているから、かしら」
「……なるほど」
毎日鏡で自分の顔を見ていても、その美しさに気づけなかったのはきっと、すぐ身近に珠莉という自分よりもキレイな存在がいるから。ついつい彼女と自分を比べては、「わたしは珠莉ちゃんほど美人じゃないし……」と自分を下に見てしまっていたんだろう。
「愛美さん、自分に自信を持つことは、自分の美しさを素直に受け入れることから始まるのよ。まずは叔父さまに、キレイなあなたを見てもらいましょうね」
「うん」
「それじゃ、リップを整えるから、ちょっとお喋りはストップしていましょうね」
愛美が口を閉じると、珠莉がリップブラシを使って丁寧に口紅を塗っていく。選んだ色はチェリーピンク。少し派手めな色だと愛美は思ったけれど、パーティー用のメイクならこれくらいでちょうどいいのかもしれない。
さらにその上から別のリップブラシでグロスを乗せられ、珠莉の手によるメイクアップは完了した。
「――はい、終わりましたわ。鏡をご覧なさい」
「…………わぁ……っ! これ、ホントにわたし……? 別人みたい」
ドレッサーの鏡に映るのは、普段見慣れた愛美とはまったく違う女の子の顔だった。
「ね、お化粧ひとつで変わるものでしょう? じゃあ交代して下さる? 私もヘアメイクしたいから」
「ああ……、うん」
愛美が交代すると、珠莉はこれまた手早く自分の髪型やメイクを整えていく。それは愛美にしてくれたような手の込んだものではなく、わりと簡単なものだった。
襟巻きを着け、ハンカチとポケットティッシュなど最低限の小物を入れたクラッチバッグを持って準備万端整った愛美に、珠莉は自分のヘアメイク完了を告げる。
「……ま、私のはこんなものでいいでしょう」
「えっ、珠莉ちゃんはそんな適当でいいの? わたしはこんなに可愛くしてくれたのに」
「ええ、いいの。私はどちらかというとホスト側だもの。さ、純也叔父さまのお部屋へ行くわよ」
「うん。純也さんも着替え終わってるといいんだけど」
珠莉の部屋を出た二人は長い廊下を進んでいき、突き当たりの角部屋のドアをノックした。ここが純也さんの部屋である。
「――はい?」
「純也さん、愛美です。珠莉ちゃんも一緒なんだけど。今、おジャマして大丈夫? もう着替えって済んでる?」
「ああ、大丈夫だよ。どうぞ」
「――だって。珠莉ちゃん、ほら」
純也さんの返事を聞いてから、愛美は珠莉に入室を促した。
「おジャマしまーす」
「叔父さま、失礼します」
「二人とも、どうした?」
二人を迎え入れてくれた純也さんは、ボルドー色のスーツにグレーのカラーシャツ、紺色のネクタイというスタイルだった。
(わ……! やっぱり純也さんのスーツ姿、カッコいい……!)
「……叔父さま、またそんなキザったらしい格好を」
一人ときめいている愛美とは逆に、珠莉は叔父の独特なカラーセンスに呆れて一言物申さずにはいられなかったらしい。
「珠莉、お前はわざわざ俺にそんなことを言いに来たんじゃないだろ」
「ああ……、そうでした。つい口が滑ってしまって」
「あのね、純也さん。珠莉ちゃんがちょっと、純也さんに相談に乗ってほしいことがあるんだって」
珠莉も自分からは言い出しにくいだろうと思い、愛美が先に助け舟を出してあげた。
「俺に……相談? 珠莉、言ってごらん?」
「ええ……。叔父さま、実は私――」
珠莉は叔父に、将来モデルになりたいという夢があること、それを両親には猛反対されそうだから打ち明ける勇気がないことを話した。
「――私も半ば諦めかけていましたの。でも愛美さん、さやかさんとお友だちになって、あと叔父さまにも感化されて。やっぱり諦めきれなくて、本気で目指そうと思うようになりましたの。ただ……、お父さまとお母さまにはまだ打ち明ける勇気が出なくて……。叔父さまが味方について下さったら、私も話しやすくなると思うんですけど」
一言も口を挟まず、うんうんと頷きながら話を聞いてくれた純也さんが、珠莉の話が終わったタイミングで口を開いた。
「一つだけ確認させてもらうけど。珠莉、お前は本気でモデルを目指すつもりでいるんだな?」
「ええ、もちろん本気です」
「……分かった。お前が本気なら、俺も全力でお前の夢を応援するよ。お前が兄さんとお義姉さん――両親に打ち明ける時にも、俺が援護射撃してやるから。そこは信用してくれ」
「……ええ! 叔父さま、ありがとうございます! 私、必ず叔父さまの恩に報いるようなモデルになりますわ!」
「わたしからもありがとう、純也さん!」
(やっぱり純也さんは、夢を追う子供を放っておけない優しい人なんだ。わたしやリョウくんだけじゃなくて珠莉ちゃんのことも)
だからこそ、〈わかば園〉のような児童養護施設にも援助を惜しまないのだと愛美は思った。



