「あ……純也さん、こんにちは。今帰ってきたの? 車が停まってたのに姿が見えなかったから」
「うん、まあね。ホントは少し前に着いてたんだけど。ちょっと近くのパティスリーへ買い物に出てたんだ」
愛美がこわごわ話しかけると、彼は先ほどの剣幕はどこへやら、いつものにこやかな顔に戻って答えてくれた。
そして、持っていた紙袋からキレイな包装紙に包まれた箱を一つずつ、愛美と珠莉に手渡してくれた。
「これ、愛美ちゃんと珠莉に、俺からのクリスマスプレゼント♪ 中身はその店特製の、焼き菓子のセットだよ」
「わぁ……、ありがとう!」
「叔父さま、ありがとうございます」
たとえ消えものでも、大好きな人からのプレゼントは愛美にとってものすごく嬉しかった。
「あと、さっきはわたしの代わりに言いたいこと全部言ってくれて、それもありがと」
もし、あそこで純也さんが現れなかったら、愛美が自分で珠莉の母親に食ってかかっていただろうけど。そして多分、言わなくてもいいことまで言って自分の立場を余計に悪くしていただろう。
「まあ、約束したからね。でも、あの連中にはあれでもまだ言い足りないくらいだよ。大切な人のことを値踏みするみたいに言われて、俺も相当頭に来てたから」
「そっか……。嬉しい!」
(わたしが感じた怒りを、純也さんも同じように感じてくれたんだ……。やっぱり、恋愛っていいな)
「愛美ちゃん、この家にいる間、また誰かに何か言われたら何でも俺に言えよ? 俺はそのために、今回帰ってきたんだから」
「うん」
「珠莉もな。俺はこの家の中では唯一、お前の味方でいるつもりだから。愛美ちゃんのことだけじゃなくて、お前が何か悩んでるならちゃんと話聞いてやるから」
「ええ。叔父さま、ありがとう」
純也さんは愛美の恋人としてだけでなく、珠莉の叔父としても優しい。そんなところに、愛美はまた喜びを感じたのだった。
* * * *
――夕方六時から始まるクリスマスパーティーの支度があるため、愛美と珠莉は純也さんと一旦別れた。
「愛美さん、後でお着替えを済ませたら私の部屋にいらっしゃいよ。簡単なヘアメイクくらいは私がして差し上げてよ」
「えっ、いいの? ありがと。じゃあ、部屋で着替えたら行くね」
珠莉とも別れた愛美は、ゲストルームへ足を踏み入れる。
「…………わぁ……、広~~い!」
何か気の利いた感想を言いたいけれど、我ながらボキャブラリーの乏しさが情けない。仮にもプロの作家なのに。
この部屋一室だけで、今寮で珠莉たちと三人で暮らしている三〇一号室くらいの広さがある。インテリアはどれも高級感が漂い、ベッドはフカフカで、天井にはここにもキラキラしたシャンデリアがぶら下がっている。
広いし快適そうな部屋ではあるけれど、何だか落ち着かない。
「……さて、着替えよっかな」
〝あしながおじさん〟――純也さんから送られてきたドレスや小物などの一式は、スーツケースとは別に梱包してここへ持ってきた。執事の平泉さんがリムジンから運び込んでくれている。
ところが、いざ着替えようとドレスを手に取ったところで問題が発覚した。
「……っていうかこのドレス、ひとりで着替えるのはムリなヤツだ。着替えも珠莉ちゃんのお部屋でしなきゃダメだな」
愛美は一式を抱えて、隣りの珠莉の部屋のドアをノックした。
「珠莉ちゃん、愛美だけど。ゴメン! 着替えもこっちでしちゃダメかな? ちょっと手伝ってほしくて」
「どうぞ、入ってらっしゃい」
――珠莉の部屋へ入れてもらった愛美は、彼女に背中のファスナーとホックを手伝ってもらいながらドレスに着替え、黒のストッキングとワインレッドの靴を履き、あと残すはネックレスと襟巻きだけ。
「ネックレスはどうしようかな……。襟巻きしたら見えないよね」
「まあ、襟巻きは外すこともあるでしょうし、ネックレスを着けた上から最後に襟巻きをすればいいんじゃないかしら」
「あ、そっか! じゃあそうしよう」
「でも、襟巻きをする前に……。愛美さん、こちらへいらっしゃい」
手早く着替えを済ませた珠莉が――彼女のドレスは水色で、スタイルの良さが引き立つタイトなデザインの膝丈だった――、愛美をドレッサーの前に手招きした。
「髪のアレンジとメイクをしてあげるわ。大人っぽいヘアスタイルとメイクをしたら、純也叔父さまもあなたに惚れ直して下さるわよ」
「え……、うん。じゃあ、珠莉ちゃんに任せるよ」
珠莉はワックスやヘアアイロンなどを使いこなして愛美の髪にウェーブをかけ、コスメボックスを開けてメイクを始めた。
「……ねえ、珠莉ちゃん」
「何ですの?」
「純也さんに、珠莉ちゃんの夢のこと相談してみたらどうかな? この後、パーティーに出る前に時間取ってもらって」
睫毛にマスカラを塗ってくれている珠莉に、愛美は言ってみた。
めったに実家へ帰ってこない彼がこの家にいる今こそ、相談する絶好のタイミングではないだろうか。電話で相談するよりも、直接話した方が伝わりやすいだろうし。
「わたしもついててあげるから、この後純也さんのお部屋に行こう?」
「……そうね。こういうことは早い方がいいものね。じゃあ、後でちょっとお付き合いしてもらおうかしら」
「うん、まあね。ホントは少し前に着いてたんだけど。ちょっと近くのパティスリーへ買い物に出てたんだ」
愛美がこわごわ話しかけると、彼は先ほどの剣幕はどこへやら、いつものにこやかな顔に戻って答えてくれた。
そして、持っていた紙袋からキレイな包装紙に包まれた箱を一つずつ、愛美と珠莉に手渡してくれた。
「これ、愛美ちゃんと珠莉に、俺からのクリスマスプレゼント♪ 中身はその店特製の、焼き菓子のセットだよ」
「わぁ……、ありがとう!」
「叔父さま、ありがとうございます」
たとえ消えものでも、大好きな人からのプレゼントは愛美にとってものすごく嬉しかった。
「あと、さっきはわたしの代わりに言いたいこと全部言ってくれて、それもありがと」
もし、あそこで純也さんが現れなかったら、愛美が自分で珠莉の母親に食ってかかっていただろうけど。そして多分、言わなくてもいいことまで言って自分の立場を余計に悪くしていただろう。
「まあ、約束したからね。でも、あの連中にはあれでもまだ言い足りないくらいだよ。大切な人のことを値踏みするみたいに言われて、俺も相当頭に来てたから」
「そっか……。嬉しい!」
(わたしが感じた怒りを、純也さんも同じように感じてくれたんだ……。やっぱり、恋愛っていいな)
「愛美ちゃん、この家にいる間、また誰かに何か言われたら何でも俺に言えよ? 俺はそのために、今回帰ってきたんだから」
「うん」
「珠莉もな。俺はこの家の中では唯一、お前の味方でいるつもりだから。愛美ちゃんのことだけじゃなくて、お前が何か悩んでるならちゃんと話聞いてやるから」
「ええ。叔父さま、ありがとう」
純也さんは愛美の恋人としてだけでなく、珠莉の叔父としても優しい。そんなところに、愛美はまた喜びを感じたのだった。
* * * *
――夕方六時から始まるクリスマスパーティーの支度があるため、愛美と珠莉は純也さんと一旦別れた。
「愛美さん、後でお着替えを済ませたら私の部屋にいらっしゃいよ。簡単なヘアメイクくらいは私がして差し上げてよ」
「えっ、いいの? ありがと。じゃあ、部屋で着替えたら行くね」
珠莉とも別れた愛美は、ゲストルームへ足を踏み入れる。
「…………わぁ……、広~~い!」
何か気の利いた感想を言いたいけれど、我ながらボキャブラリーの乏しさが情けない。仮にもプロの作家なのに。
この部屋一室だけで、今寮で珠莉たちと三人で暮らしている三〇一号室くらいの広さがある。インテリアはどれも高級感が漂い、ベッドはフカフカで、天井にはここにもキラキラしたシャンデリアがぶら下がっている。
広いし快適そうな部屋ではあるけれど、何だか落ち着かない。
「……さて、着替えよっかな」
〝あしながおじさん〟――純也さんから送られてきたドレスや小物などの一式は、スーツケースとは別に梱包してここへ持ってきた。執事の平泉さんがリムジンから運び込んでくれている。
ところが、いざ着替えようとドレスを手に取ったところで問題が発覚した。
「……っていうかこのドレス、ひとりで着替えるのはムリなヤツだ。着替えも珠莉ちゃんのお部屋でしなきゃダメだな」
愛美は一式を抱えて、隣りの珠莉の部屋のドアをノックした。
「珠莉ちゃん、愛美だけど。ゴメン! 着替えもこっちでしちゃダメかな? ちょっと手伝ってほしくて」
「どうぞ、入ってらっしゃい」
――珠莉の部屋へ入れてもらった愛美は、彼女に背中のファスナーとホックを手伝ってもらいながらドレスに着替え、黒のストッキングとワインレッドの靴を履き、あと残すはネックレスと襟巻きだけ。
「ネックレスはどうしようかな……。襟巻きしたら見えないよね」
「まあ、襟巻きは外すこともあるでしょうし、ネックレスを着けた上から最後に襟巻きをすればいいんじゃないかしら」
「あ、そっか! じゃあそうしよう」
「でも、襟巻きをする前に……。愛美さん、こちらへいらっしゃい」
手早く着替えを済ませた珠莉が――彼女のドレスは水色で、スタイルの良さが引き立つタイトなデザインの膝丈だった――、愛美をドレッサーの前に手招きした。
「髪のアレンジとメイクをしてあげるわ。大人っぽいヘアスタイルとメイクをしたら、純也叔父さまもあなたに惚れ直して下さるわよ」
「え……、うん。じゃあ、珠莉ちゃんに任せるよ」
珠莉はワックスやヘアアイロンなどを使いこなして愛美の髪にウェーブをかけ、コスメボックスを開けてメイクを始めた。
「……ねえ、珠莉ちゃん」
「何ですの?」
「純也さんに、珠莉ちゃんの夢のこと相談してみたらどうかな? この後、パーティーに出る前に時間取ってもらって」
睫毛にマスカラを塗ってくれている珠莉に、愛美は言ってみた。
めったに実家へ帰ってこない彼がこの家にいる今こそ、相談する絶好のタイミングではないだろうか。電話で相談するよりも、直接話した方が伝わりやすいだろうし。
「わたしもついててあげるから、この後純也さんのお部屋に行こう?」
「……そうね。こういうことは早い方がいいものね。じゃあ、後でちょっとお付き合いしてもらおうかしら」



