「おい、お前誰だ」




えっ?




突然後ろから声がして驚いて扉にかけようとしていた手を止める。




全く、気配を感じなかった……




後ろを向いていても背中からひしひしと伝わってくる。この人、強い……っ



もう何件も任務をこなしてきたし訓練だって私より体格も経験も上の大人と訓練していたのに、この人には勝てないと本能が警告してくる。




「おい、お前は誰だ」




低く、心臓の奥まで響き渡る声。




私はこの声に恐怖した。




「す、みません……私は今日から詩さんの護衛をする八神杏と申します……っ」




声が震える。手だって震えているし足もすくんで動けない。



あいつらを思い出してしまうから。




「護衛?んなもん頼んでねーぞ、さっさと出てけ」




怒鳴られているわけじゃないのに何かがおかしい。




「大変、申し訳ありませんでした……っ」




震える手を無理やり動かし重い扉を開け、廊下に飛び出る。




扉が閉まる直前にチラリッと見えた顔。きっとさっき私の後ろにいた人だろう。





氷のように冷たい目。





目にかかっている長めの前髪。




ちっさな顔。




長い前髪の隙間から見えたその目は漆黒の黒色で妙に引き込まれそうになる。




暗いのに一瞬でわかった。




この人すごく綺麗な顔をしている。と……




何、あの人……っ




今はイケメンだったとかそんな事を考えている暇はない。それより大事な事があるから。




私はあの人の護衛をしないといけないの?




護衛なんていらなさそうな人だった。気配を消せるくら
いだから只者じゃないのは確かだ。




なのに、どうして私が護衛を?




「私、やっていけるかな……」