お兄ちゃんは私の前に立ち見下ろすように睨みながら昔話を始める。




「昔、両親は俺に最上の愛を注いで育ててくれた。だが、それは長くは続かなかった。なぜだかわかるか?それはお前が、生まれたからだ」




「両親の口癖は金がかかる。だったよ、お前が生まれたから!」




私が生まれたから……




淡々と話すお兄ちゃんの目の奥には静かにメラメラと怒りの炎があがっていた。




「お前が生まれてからは俺の事を見ようともせずずっと放りっぱなし、だからあそこから抜け出した。子供が失踪したんだから俺の事を考えてくれる。そう思ったからだ」




もしかしたら私が物心着く前はちゃんと育てていたのだろうか?




私の目にはお金だけを見て、私達の事は見向きもしなかったと思っていた。





でももしかしたら私が産まれる前は違ったのかもしれない。




……私が生まれたから八神家は壊れたの?




「お前さえいなけりゃ俺達は変わらなかった!お前さえ、お前さえいなけりゃ!」





そう言いながら感情が爆発したお兄ちゃんは私の胸ぐらを掴み怒りを私にぶつけてくる。




その衝撃で詩さんから貰ったネックレスが取れてどこかに飛んでしまった。




私はお兄ちゃんの悲痛な叫びに鼓膜を揺らす。



私が生まれなければ、何も起こらなかった……私がいなければ、お兄ちゃんをこんな風にする事もなかった……




きっと私という存在が生まれなければ幸せだった家族がきっと今もなおあった……っ





私は自分という存在を全否定されたようで胸が締め付けられているように苦しかったが、それよりも悲しかった。




もし、生まれてこなければ、いやっ八神杏としてこの世にこなければきっとソヒップに入って仲間の死を知る事もなかった。
  



全てが私のせいな気がしてきて涙が溢れてくる。