「こんな森の奥に来るのって初めて」


真っ暗な森の奥深くには、ヒトには優しくないモノノケがたくさんいるらしい。

祖母にもカナ爺にも、行かない方がいいと言われていたので、私が遊ぶのは、まだ光の届く家の近くだけだった。


「光が射しづらい場所に住むモノノケは、ヒトに害を与えがちですからね」


先頭を歩く月浦さんが振り返りながら言う。

その手には小さな提灯がぶら下げられている。

中身は普通の火ではなく鬼火だ。

モノノケが死ぬと、この鬼火になって自分の子孫達を守るのだ。

そういえば祖母は、『悪いモノノケ』という言い方をしたことが一度もなかった。

いつも、


「いいとか悪いとか、そういうのはその人の主観によるものだからね。

滅多に使って良い言葉じゃないんだよ」


と言っていた。