それはともかくとして、いつもはニコニコしていて、小料理屋の女将みたいに落ち着いている鈴香さんが珍しくあわてている。


「ど……」

どうしたんですか、と聞こうとした私の言葉は、結局鈴香さんには届かなかった。

「由香(ユカ)ちゃん!紫乃(シノ)さんはどこ!」

と物凄い剣幕で布団をひっぺがされ、肩を揺さぶられたからだ。


「ばあちゃんは昨日から二泊三日の温泉旅行中ですっ……ってか痛いです鈴香さん!」

鈴香さんは私の肩から手を離し、ただでさえ青い顔をさらに青くした。

「そんな……じゃあどうしたら……もう間に合わないのに……」


何のことか。

「あの、何か伝言があるなら伝えておきますよ」

宙を見つめて絶望的な顔で何やらブツブツ呟いていた鈴香さんは、私のその声で一瞬我に返ったらしいが、チラリとこちらをみてまたブツブツと言い始めた。

「あの……」

もう一度声をかけると、彼女は意を決したように私に向き直り、またも肩を掴んで言った。