驚きすぎて固まっている私の目に飛込んできたのは、真っ青な顔をした鈴香(スズカ)さんだった。

腕には何か抱えている。

ちなみに鈴香さんというのは九尾の狐で、祖母の友達の美人さんだ。

狐といってもうちに来るときは人間の姿をしているので、別に普通のお客さんみたいなもんだ。

いつも季節に合わせた綺麗な柄の着物を着ていて、髪をうなじが見えるように綺麗に結い上げている。

派手過ぎない化粧も、彼女の美しさを引き立てている。


私が小学生の頃、祖母を訪ねてきた鈴香さんに「鈴香さんはヒトじゃないの?」と聞いたことがある。

そのとき彼女はニコリと笑い、「秘密よ」と言って私に大きな狐の耳と尻尾を見せてくれた。

確かに尻尾は9本あった。

縁側で鈴香さんと話す私を見た母は、不思議そうな顔をしていた。


「由香、誰と話しているの?」


そのとき、私はモノノケが本当に存在し、存在するのに誰にでも見えるわけではないということを知った。

母には見えなくても、祖母には見えている、ということも。