肩から手が離される。

私が振り向くと、水穂さんはにこりと笑った。

さっきまでの生意気な態度とは全く違う、爽やかな笑みだ。


「聞きたいことは、一つじゃなかったの?ヒトの子?」


言葉に詰まる。

そういう揚げ足を取るみたいな回答はちょっと予想してなかった。

だが、私が次の言葉を発する前に、水穂さんは私の頭を二度撫で、目線を合わせてこう言ったのだった。


「正解だよ、ヒトの子。

僕が彼の父親だ」


「えっ」


こんなにあっさり認められるとは思っていなかった。

私の頭から手を離した水穂さんは、自分の前髪をいじりながらチラチラとカラスの族長の方を見ている。


「まいったなぁ。

牢屋には入りたくないけどそうもいかないんだろ?」


「そうだな。

一緒に来てもらおうか」


「あ、その前に、カラスにサービスしてあげるよ」


水穂さんの姿が歪み、銀色の鳥が現れた。

止める間もなく水穂さんが変化したその鳥は森の向こうへ飛んでいった。

水穂さんはしばし後に帰ってきた。

右手一本で鬼の子を引きずりながら。

左手にはロープを持っている。

族長の前で右手を離し、ロープを差し出しながら言う。


「捕まえてきたよ。

これで縛って連れて帰るといい」


彼は、ビックリするほど強いようだった。



そうして彼は、カラスに捕らえられることになった。