月浦さんは済ました顔のまま眼鏡のフチを持ち上げ、


「今日は私の元にきてくださる予定だったのでしょう?

足を運んでいただくのも何ですので、こちらから出向きました」


と言った。

それにしたって、もうちょっといい出向き方があるだろう。

9時頃にチャイムを鳴らしてくれれば、こんな、寝癖で前髪が跳ね上がったところを見られなくて良かったのに。


「それはそれは、ありがとうございます。

あの、パジャマを着替えたいので、居間の方で待っていてもらってもいいですか?」


月浦さんは、わかりました、とうなずき、秀と一緒に私の部屋から出て行った。

ふすまを閉める少し前、月浦さんがかすかに笑ったのを私は見逃さなかった。

くそう、やっぱり楽しんでいたんだ。