鳥居をくぐろうとしている日和子さんの手を引き、立ち止まる。

さっきとは違う意味で汗をかいているのがわかる。


「あの、すいません。

ちょっと用事を思い出したんで、一回帰ってもいいですか?」


我ながら最悪な言い訳だ。

もうちょっとうまい言い方もあるだろうに。

振り返った日和子さんは、相変わらず微笑んでいる。

だがもうその微笑みは恐ろしいだけのものだ。


「どうしてですか?」


どうしてですかって!

用事があるって言ってるじゃないですか!

そう言おうとした私は、口を開けないことに気付く。

だんだん頭の芯がぼやけてきて、日和子さんの瞳しか目に映らない。