朝陽さんがふたりのケンカの仲裁に入ると、すぐにその場の雰囲気が変わった。
さっきまで心配になるほど険悪な雰囲気だったのに、朝陽さんがいるだけで、その場が少し和らぐのだ。
朝陽さんはしゃがんで、ふたりに目線を合わせ優しい口調で話す。
「どうして、ケンカなったか話せる?」
すると茜君が「蒼が、俺のトカゲを横取りしようとしたんだ」と口を開き、自分の両手に包んでいたトカゲを見せた。
「は?もともと茜のトカゲじゃないだろ。俺のだ!」と、蒼君が言い返す。
「じゃあ、なんで茜がトカゲを持ってるの?」
朝陽さんは優しい口調だが、冷静で的確に質問をつづける。
すると蒼君が「それは…、俺が茜にあげたから」と、ばつが悪そうに答えた。
「なんで怒るほど大切なトカゲを茜にあげちゃったの?」と、朝陽さんがさらに訊ねる。
「茜がいちばんの友達だから」
そう呟いた蒼君の目からは、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「そっか。いちばんの友達だもんね、トカゲあげたかったんだね」と、朝陽さんは蒼君をぎゅっと抱きしめる。蒼君は朝陽さんの胸の中で泣きながら何度もうなずいた。
それを見ていた茜君もとうとう泣いてしまったので、朝陽さんは茜君のことも抱きしめて「蒼から、いちばんの友達って言ってもらえたし、トカゲもらったことも本当に嬉しかったね」と優しく言ったあと。
「ふふふ。蒼と茜の本当の気持ちがわかって良かった」
そう呟いて微笑む朝陽さんの姿に、私はあたたかい太陽を連想し、女神様とはまさにこういう人なのだろうと思った。
朝陽さんは本当にすごい人だ。子どもたちが信頼して懐く理由が見ているとよくわかる。
しかし、そんなふうに尊敬する思いとは反対に、もしこの人が恋のライバルだったらどうしようという心配に襲われた。
「ところで聞きたいんだけど、なんで蒼は茜にトカゲを返して欲しいって怒ったの?一度あげたのに」
朝陽さんがそう質問して首を傾げると、蒼君はあっけらかんとした顔でこう答えた。
「学校の帰りにトカゲを二匹捕まえたんだ。その一匹を茜にあげたの。でも、さっき俺のトカゲを茜にあずけてトイレ行ってるうちに、茜が俺のトカゲを逃しちゃったの。だから、あげたやつはやっぱり俺のトカゲだ返せってケンカになったんだ」
それを聞いて、すぐ顔が真っ青になる朝陽さん。
「ねーっ、それってさ。学童の中にトカゲが一匹脱走してるってことだとね。私、トカゲ触れないんだけど!勘弁してよー!もーっ!」
うなだれる朝陽さんを見て、蒼君と茜君がくすくすと笑う。
そのとき、学童内の固定電話が鳴った。
「もー、こんなときに電話かぁ。流星君、ちょっとここ任せる。あと、ごめん。私トカゲ苦手だから助けて」と、先輩に手を合わせて言うと、朝陽さんはぱたぱたと電話を取りに行った。
流星先輩は「わかりました」と言って、そのとき明らかに嬉しそうな表情でにっこり笑ったのを私は見逃さなかった。
実は私はあることに気づいていた。さっきから、ずっと流星先輩は朝陽さんのことを目で追っていたのだ。そんな先輩を私も無意識に目で追ってしまっている。
先輩は朝陽さんに対して、やっぱりとくべつな感情があるのだろうか。つくづく、いらないことに気づいて、気にしてしまう自分がいやになった。
さっきまで心配になるほど険悪な雰囲気だったのに、朝陽さんがいるだけで、その場が少し和らぐのだ。
朝陽さんはしゃがんで、ふたりに目線を合わせ優しい口調で話す。
「どうして、ケンカなったか話せる?」
すると茜君が「蒼が、俺のトカゲを横取りしようとしたんだ」と口を開き、自分の両手に包んでいたトカゲを見せた。
「は?もともと茜のトカゲじゃないだろ。俺のだ!」と、蒼君が言い返す。
「じゃあ、なんで茜がトカゲを持ってるの?」
朝陽さんは優しい口調だが、冷静で的確に質問をつづける。
すると蒼君が「それは…、俺が茜にあげたから」と、ばつが悪そうに答えた。
「なんで怒るほど大切なトカゲを茜にあげちゃったの?」と、朝陽さんがさらに訊ねる。
「茜がいちばんの友達だから」
そう呟いた蒼君の目からは、涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「そっか。いちばんの友達だもんね、トカゲあげたかったんだね」と、朝陽さんは蒼君をぎゅっと抱きしめる。蒼君は朝陽さんの胸の中で泣きながら何度もうなずいた。
それを見ていた茜君もとうとう泣いてしまったので、朝陽さんは茜君のことも抱きしめて「蒼から、いちばんの友達って言ってもらえたし、トカゲもらったことも本当に嬉しかったね」と優しく言ったあと。
「ふふふ。蒼と茜の本当の気持ちがわかって良かった」
そう呟いて微笑む朝陽さんの姿に、私はあたたかい太陽を連想し、女神様とはまさにこういう人なのだろうと思った。
朝陽さんは本当にすごい人だ。子どもたちが信頼して懐く理由が見ているとよくわかる。
しかし、そんなふうに尊敬する思いとは反対に、もしこの人が恋のライバルだったらどうしようという心配に襲われた。
「ところで聞きたいんだけど、なんで蒼は茜にトカゲを返して欲しいって怒ったの?一度あげたのに」
朝陽さんがそう質問して首を傾げると、蒼君はあっけらかんとした顔でこう答えた。
「学校の帰りにトカゲを二匹捕まえたんだ。その一匹を茜にあげたの。でも、さっき俺のトカゲを茜にあずけてトイレ行ってるうちに、茜が俺のトカゲを逃しちゃったの。だから、あげたやつはやっぱり俺のトカゲだ返せってケンカになったんだ」
それを聞いて、すぐ顔が真っ青になる朝陽さん。
「ねーっ、それってさ。学童の中にトカゲが一匹脱走してるってことだとね。私、トカゲ触れないんだけど!勘弁してよー!もーっ!」
うなだれる朝陽さんを見て、蒼君と茜君がくすくすと笑う。
そのとき、学童内の固定電話が鳴った。
「もー、こんなときに電話かぁ。流星君、ちょっとここ任せる。あと、ごめん。私トカゲ苦手だから助けて」と、先輩に手を合わせて言うと、朝陽さんはぱたぱたと電話を取りに行った。
流星先輩は「わかりました」と言って、そのとき明らかに嬉しそうな表情でにっこり笑ったのを私は見逃さなかった。
実は私はあることに気づいていた。さっきから、ずっと流星先輩は朝陽さんのことを目で追っていたのだ。そんな先輩を私も無意識に目で追ってしまっている。
先輩は朝陽さんに対して、やっぱりとくべつな感情があるのだろうか。つくづく、いらないことに気づいて、気にしてしまう自分がいやになった。


