次の日の放課後。私はまたにじそら学童の前に足を運び建物の周りをひとりでうろうろとしてしまう。昨日のあの女性が先輩の浮気相手だとは、まだ断定できない。
それにしても学童って、小学生の子が学校が放課後に通うあの学童のことだよね。
自分が小学生のときも、親が仕事で家にいない友達が学童に通っていた記憶がある。うちはママが専業主婦なので私は学童に通ったことがない。
そんなことを考えていると、学童の玄関の扉ががらがらと音を立てて開き、女の人の声が飛んできた。
「ごめんなさい。もしかして待ってた?さっそく中に入って」
声の主は、昨日流星先輩のとなりにいた女性だった。驚きのあまり声が出せない私は、女性が言われるがまま中に入ってしまった。
すぐに、将棋、こま回し、けん玉、毛糸の編み物、人生ゲームなどをわいわいと仲間同士で楽しむ子どもたちの姿が目に飛び込んできた。
そして私は、子どもと将棋を指している流星先輩もすぐに見つけてしまう。先輩は私と目が合うと驚いた顔をした。
しまった。元カノがいきなり現れたら絶対変に思うはず。あとをつけたとか、気持ち悪いとか思われたらどうしよう。
そんな不安で表情が固まってしまった私に対し、先輩はぱっと明るい顔になって微笑みひらひらと手を振ってくれた。
なにもしないのはおかしいと思い、私も手を小さく振って返す。
それを見た女性が、「あれ?あなた流星君の知り合い?」と首を傾げたので、私はしまったこの人には先輩との関係を今は探られたくない思いながら「はい」とうなずいた。
女性は「そうなんだ。とりあえず奥のテーブルのとこ座って」と、深くは追求はせず私を案内した。
案内された背の低いテーブルの前の床に腰を下ろすと、女性はその対面に座って「それじゃ、面接始めるね。私は臨時で学童の指導員をしてる椿朝陽です」と言ってにっこり笑い挨拶をした。
そうか。かんちがいされて案内されたんだと気づき、すぐ説明しようとしたが私の小さな声はふたりの男の子に遮られる。
「いらっしゃい。お姉ちゃん!この座布団使ってよ!」と、右手に青いリストバンドをした男の子が私に座布団を持って来てくれた。
「散らかった学童だけど、ゆっくりしていってねー」と、赤いリストバンドをした男の子もつづけて言った。
私が受け取った座布団を引いて座ると、ふたりの男の子は人懐っこい笑顔でにこにこしている。
「青いリストバンドのほうが青山蒼。赤いリストバンドのほうは赤池茜。ふたりともいたずら好きでやんちゃな小学四年生だよ」と、朝陽さんが紹介してくれた。
次に朝陽さんが「ところで、ふたりとも私のぶんの座布団はー?」と訊くと、「朝姉はお尻硬いからいらないでしょ」「朝姉、俺たちより強いじゃん」と、蒼君と茜君のふたりが笑って言った。
「オッケー。ふたりとも、あとで私が宿題見てばっちり指導してあげるね」
朝陽さんがそう言って満面の笑みを浮かべると、「やっべ、朝姉が怒った」とふたりは一目散に逃げて行く。
「まったく、あのふたりは」
そうため息をついた朝陽さんの膝の上に、次は緑色のロゴが入った黒い帽子をうしろ向きに被った可愛らしい女の子がちょこんと座った。
そして、その女の子は「私は一年生の森緑莉です。朝姉〜、私も一緒に面接させてよ〜」と言った。
「もー、緑莉は私の膝に座りたいだけでしょ。面接のお邪魔しちゃだめだからね」
「はーい」と返事をし、緑莉ちゃんは嬉しそうに頭を横にふりふりした。
「それじゃ、面接のつづきするね。学童は平日の放課後や土曜日、夏休みや冬休みなどに子どもたちをあずかって保育するところです。正規指導員は私を合わせて二名。一名は産休中です。十名のアルバイトの指導員がいて、子どもは五十名が在籍しています。それで、あなたに指導員としてお願いしたい保育内容なんだけど、こうやって口で説明するより実際にやりながらのほうが教えやすいから…」
朝陽さんが説明をしている間、本当は人ちがいだとちゃんと伝えなくては、そう思ってはいたがここまで流されてしまったせいで、なかなか言い出すタイミングが見つからなかった。
人に伝えなければならないことを、ちゃんと言えないところ、よく言葉足らずなところ。昔からそういうのが苦手で、直さなくてはならない私の悪いところだ。
そのとき背後から「返せよ!それ俺のだ」「いや、俺のだし」と激しい口論が聞こえてくる。
振り返ると蒼君と茜君が、今にも取っ組み合いをしていまいそうな勢いでケンカをしていた。さっきまであんなに仲良しだったのに。
すぐに朝陽さんが「ケンカするほどってやつね。ちょっと面接は中断ね」と言うと、緑莉ちゃんがぴょこっと膝から降りる。朝陽さんは立ち上がってふたりのケンカを止めに行った。
それにしても学童って、小学生の子が学校が放課後に通うあの学童のことだよね。
自分が小学生のときも、親が仕事で家にいない友達が学童に通っていた記憶がある。うちはママが専業主婦なので私は学童に通ったことがない。
そんなことを考えていると、学童の玄関の扉ががらがらと音を立てて開き、女の人の声が飛んできた。
「ごめんなさい。もしかして待ってた?さっそく中に入って」
声の主は、昨日流星先輩のとなりにいた女性だった。驚きのあまり声が出せない私は、女性が言われるがまま中に入ってしまった。
すぐに、将棋、こま回し、けん玉、毛糸の編み物、人生ゲームなどをわいわいと仲間同士で楽しむ子どもたちの姿が目に飛び込んできた。
そして私は、子どもと将棋を指している流星先輩もすぐに見つけてしまう。先輩は私と目が合うと驚いた顔をした。
しまった。元カノがいきなり現れたら絶対変に思うはず。あとをつけたとか、気持ち悪いとか思われたらどうしよう。
そんな不安で表情が固まってしまった私に対し、先輩はぱっと明るい顔になって微笑みひらひらと手を振ってくれた。
なにもしないのはおかしいと思い、私も手を小さく振って返す。
それを見た女性が、「あれ?あなた流星君の知り合い?」と首を傾げたので、私はしまったこの人には先輩との関係を今は探られたくない思いながら「はい」とうなずいた。
女性は「そうなんだ。とりあえず奥のテーブルのとこ座って」と、深くは追求はせず私を案内した。
案内された背の低いテーブルの前の床に腰を下ろすと、女性はその対面に座って「それじゃ、面接始めるね。私は臨時で学童の指導員をしてる椿朝陽です」と言ってにっこり笑い挨拶をした。
そうか。かんちがいされて案内されたんだと気づき、すぐ説明しようとしたが私の小さな声はふたりの男の子に遮られる。
「いらっしゃい。お姉ちゃん!この座布団使ってよ!」と、右手に青いリストバンドをした男の子が私に座布団を持って来てくれた。
「散らかった学童だけど、ゆっくりしていってねー」と、赤いリストバンドをした男の子もつづけて言った。
私が受け取った座布団を引いて座ると、ふたりの男の子は人懐っこい笑顔でにこにこしている。
「青いリストバンドのほうが青山蒼。赤いリストバンドのほうは赤池茜。ふたりともいたずら好きでやんちゃな小学四年生だよ」と、朝陽さんが紹介してくれた。
次に朝陽さんが「ところで、ふたりとも私のぶんの座布団はー?」と訊くと、「朝姉はお尻硬いからいらないでしょ」「朝姉、俺たちより強いじゃん」と、蒼君と茜君のふたりが笑って言った。
「オッケー。ふたりとも、あとで私が宿題見てばっちり指導してあげるね」
朝陽さんがそう言って満面の笑みを浮かべると、「やっべ、朝姉が怒った」とふたりは一目散に逃げて行く。
「まったく、あのふたりは」
そうため息をついた朝陽さんの膝の上に、次は緑色のロゴが入った黒い帽子をうしろ向きに被った可愛らしい女の子がちょこんと座った。
そして、その女の子は「私は一年生の森緑莉です。朝姉〜、私も一緒に面接させてよ〜」と言った。
「もー、緑莉は私の膝に座りたいだけでしょ。面接のお邪魔しちゃだめだからね」
「はーい」と返事をし、緑莉ちゃんは嬉しそうに頭を横にふりふりした。
「それじゃ、面接のつづきするね。学童は平日の放課後や土曜日、夏休みや冬休みなどに子どもたちをあずかって保育するところです。正規指導員は私を合わせて二名。一名は産休中です。十名のアルバイトの指導員がいて、子どもは五十名が在籍しています。それで、あなたに指導員としてお願いしたい保育内容なんだけど、こうやって口で説明するより実際にやりながらのほうが教えやすいから…」
朝陽さんが説明をしている間、本当は人ちがいだとちゃんと伝えなくては、そう思ってはいたがここまで流されてしまったせいで、なかなか言い出すタイミングが見つからなかった。
人に伝えなければならないことを、ちゃんと言えないところ、よく言葉足らずなところ。昔からそういうのが苦手で、直さなくてはならない私の悪いところだ。
そのとき背後から「返せよ!それ俺のだ」「いや、俺のだし」と激しい口論が聞こえてくる。
振り返ると蒼君と茜君が、今にも取っ組み合いをしていまいそうな勢いでケンカをしていた。さっきまであんなに仲良しだったのに。
すぐに朝陽さんが「ケンカするほどってやつね。ちょっと面接は中断ね」と言うと、緑莉ちゃんがぴょこっと膝から降りる。朝陽さんは立ち上がってふたりのケンカを止めに行った。


