君が星を結ぶから

 その日の夜、自分の部屋のベットに座りながら鞠子から聞いた話を思い返す。


 付き合っているのに、恋人がほかの異性と仲良くしてしまって嫉妬をしてしまうのはよくあること。たしかに好きな人の交友関係の束縛は良くない。でも、ほかの異性と仲良くするのにも程度というのがあって、あきらかに恋人が不安になってしまうようないけない関わり方をしている人たちも世の中にはいるのだ。


 じゃあ、そんなとき。どうやって浮気防止したらいいのか。鞠子がお姉ちゃんたちの体験談を教えてくれた。


 いちばん良いのは言いづらいけど素直に自分の気持ちを彼に伝えて、彼女の不安な気持ちに寄り添って彼が変わってくれるのがベストだ。


 でも一筋縄じゃいかない彼だっているし、水面下でこっちができることだってたくさんある。


 二番目の高校生のお姉ちゃんは、彼氏によく鬼電をするし、普段からDMの返信も頻繁にしてほしいと彼に伝えている。それは寂しいからという単純な理由ではなく、この人には彼女がいますという彼氏周りへのアピールになり、疑わしい子がいるとき、その子への牽制になるそうだ。こういった彼女からの包囲網を掻い潜って、わざわざ浮気する男はなかなかいない。


 社会人のお姉ちゃんは、実際に浮気をされたことがあるらしい。それで懲りて学んだのが、恋人からめんどくさいとか重い女とか思われる心配より、浮気を予防できるなら予防したかったし、そんな自分に嫌気がさして離れていくような人だったら、どっちみちその人は私より自分の欲望を優先する人だと割り切って早めに別れることができた。そのお姉ちゃん曰く、男というものは同棲してからは、お金とスマホをこっちが監視できれば絶対に浮気はできないらしい。


 とにかく浮気は普段からきっかけを作らせないこと。彼女を優先できるような、彼女想いな彼に育てていくことが大切らしい。


 私だったら受け身になってしまいなにもできないのに、幸せは自分の手で掴みにいくような鞠子のお姉ちゃんたちの強さに驚かされた。


 できることなら、こんなこととは無縁な恋愛を自分はしたかった。でも今はそんなこと考えても仕方がない。


 次に私は、先輩に振られてしまった今の自分の状況を振り返る。


 私がこれからやろうとしていることは、周りの人から見ていつまでも未練たらたらなだけの、ただのめんどくさい女なんじゃないだろうか。


 それか顔だけイケメンのだめ男を信じ、貢ぐような女になっていないだろうか。


 いろいろと考えながら向き合うのはつらいけど、やっぱり真実を知らないと、ちゃんと自分で考えて納得できる答えが出せないと思った。


 だから私は大好きな先輩だけど、半分信じて、半分は疑うことを心に決めた。


 そのとき、ちょうどスマホにDMが届く。鞠子からだ。


 【お姉ちゃんから聞いたんだけど、流星先輩は軽音部が終わったあと、いつも桜舞公園を通ってどこかに行ってるらしいの。そのとき、よくとなりに女を連れてるらしい。明日、学校終わったあと張り込みしよう】


 私は【わかった】と、返信した。


 さっそく次の日の放課後、私と鞠子は桜舞公園の中央広場のベンチで張り込みをする。


 「鞠子、ごめんね。こんなことに付き合わせちゃって」


 申し訳なく思って私がそう言うと「いやいや。今、つらいのは結だから。本当は結だってこんなことしたくないわけだし」と、鞠子が言ってくれた。


 きっと友達想いな鞠子のことだ。最悪な場面を目撃しショックを受ける私が、ひとりぼっちにならないようについて来てくれたのだろう。


 そんなことを考えていると、「だってさ。結には借りがあるじゃん」と鞠子が呟いた。


 あぁ、あのときのことか。べつに気にしなくていいのに。そう思ったのも束の間、私のレーダーはすぐに遠くにいる先輩を見つける。


 私はいつもデートで待ち合わせしたときなど、先輩が私を見つけるより先に、いつも先輩のことをすぐに見つけてしまう。


 ひとりで歩く先輩、私を探す先輩、いろんな先輩を見るのが好きだった。


 今も先輩を見つけて嬉しい気持ちになったけど、すぐに私の胸は締め付けられたように苦しくなる。


 先輩のとなりには女性がいるのだ。どうやら桜舞公園で待ち合わせをしていたらしい。


 ふたりはこっちに歩いて近づいてくる。


 呆然としてしまい動けない私を、「結、なにやってるの!隠れるよ!」と、鞠子がベンチのうしろにあった木の裏に引っ張る。


 見知らぬ女性とフレンドリーに会話しながら、目の前を通り過ぎる流星先輩。


 私は一瞬でその女性を目に焼き付けた。


 歳は二十代半ばくらい。ロングな黒髪、私にはないぱっちり二重瞼と綺麗な瞳、SNSでよく見る可愛い流行りのメイク。あとTシャツ越しにもわかるスタイルの良さで、女の私が見ても凹凸が美しいと思う胸から腰のライン。


 となりで鞠子がはっきり怒ってるとわかる冷たい口調でこう呟いた。


 「きもっ!あの浮気男、大人の女の色香にやられたんだ。まじで最低、うざ!もう、いいよ。帰ろ、結」


 しかし私は返事もできず、なにも考えれない真っ白な頭のまま公園の外に出たふたりを追いかけてしまう。


 「あー、もうっ!まったく、この子は」と、言いながらも鞠子はあとをついて来てくれた。


 バレないように流星先輩と女性のあとを追って行くと、ふたりは古い平屋の一軒家に入る。


 ここが女性の家なのだろうか、表札を見てみると『にじそら学童』と書いてあり、そのとなりには指導員のアルバイト募集中と学童に通う子どもが描いたであろうポスターが貼ってあった。


 一軒家の中からは子どもたちの賑やかな声が聞こえてくる。


 私と鞠子はどういうこと?と顔を見合わせた。