後日、学校の教室で休み時間に、クラスメイトであり親友の小手鞠子に私は流星先輩に振られてしまったことを相談した。


 鞠子は社会人と高校生のお姉ちゃんがふたりいて、よく三姉妹で恋バナをしているので彼女は恋愛に対して中学三年生とは思えないようなアドバイスをくれることがある。


 今まで恋愛なんてしたこともない私は、そんな鞠子をかなり頼りにしているのだ。


 鞠子は私の話を聞くと、すぐ眉にしわを寄せてこう言った。


 「まぁ、付き合ってみてなんかちがうってなったのかもしれないね。こっちからしたら本当にいい迷惑なんだけどさ」


 「正直、すごく好きだったぶん、心のダメージがひどくってさ。昨日なんて部屋に篭ってずっと泣いちゃったよ」


 信頼しているからこそ私は鞠子にありのままの気持ちを吐露する。


 「先輩とのDMや写真とか見返したり、今日も学校来るとき先輩この道通らないかなとか思って少し待ってみたりさ。そんなことばっかしちゃうんだよね」


 「そうだよねぇ。好きだった気持ちはすぐには消えないよね」


 そう言って私の気持ちに共感してくれた鞠子だったが、次の日の休み時間。


 鬼のような形相をして彼女は私にこう言った。


 「流星先輩ってさ。SNSでバズってる種高の流星のことだよね?あの男はだめ!絶対遊ばれる!追っちゃだめだからね!」


 「どうしたの急に?片想いしてるくらいならいいじゃん。また今度DMしてみようかなって思ってるんだけど」と、私は首を傾げた。


 すると、鞠子は「私は親友として結に言ってんの!いつまで自分を振った男を好きでいるのよ。もう、やめときな」と言って真剣な目をこっちに向ける。


 「よく聞いて、結。世の中には良い恋愛と悪い恋愛がある。自分が相手を好きってまっすぐな気持ちだけじゃだめなの!最終的に自分がこの人といて幸せかも、ちゃんと考えなきゃだめなの!恋愛ってね。心を幸福に彩る素敵なものでもあるけど、同時に人生を転落させるリスクもあるんだよ!だから好きな人は、ちゃんと信じてもいい人か見極めなきゃならない!流星先輩は本当に信じて大丈夫な人なの?私は大切な親友の結に不幸になってほしくないの!」


 真剣に私のことを心配してアドバイスをくれた鞠子には申し訳ないけど。


 振られたけどまだ先輩のことが好きだし、先輩の人間性も信頼しているので私は黙ってうつむく。


 「あーっ、もう!結には言いたくなかったのに」


 鞠子がそう言って眉にしわを寄せながら頭をかいた。


 そんな鞠子を見て首を傾げる私に、彼女は真剣な表情で言った。


 「浮気してたんだよ!その流星先輩って人!二番目のお姉が一緒の種千高校に通ってるんだけど今すごく噂になってて、SNSでも種高の流星が大炎上してるって教えてくれた」


 「え?浮気?その噂ちょっと詳しく教えて」


 私はおそるおそる訊ねる。


 「同年代はもちろん、下は中学生から、上は社会人まで、彼女がいるのに女遊びがひどいやつで、いろんな女とデートしてるところが目撃されてるらしい。歌うまの誠実イケメンキャラだったから、SNSでも化けの皮が剥がれたって批判の嵐だよ」


 「下は中学生って、私は先輩とちゃんと付き合ってたんだけど」


 「そうだとしても、付き合ってる人がいるのに、見境なく他の女とふたりっきりでデートしちゃうのって、彼女の立場だったら当然心配になるし、すごく失礼な行為だと思う。きっと他の女にも好きだとか、付き合ってるとか同じようなこと言ってたんだよ!」


 頭にかっかと血を昇らせて鞠子がそう言った。


 今までの流星先輩の優しい言葉や対応は、全部嘘だったのだろうか。陰で裏切っていたのだろうか。


 本当は私のことなんて好きでもなんでもなくて、ただ都合がいい女として遊びたかったから優しくしてくれただけなのだろうか。


 だから私はあの夜。好きかわからないと、そんな毒にも薬にもならないような理由で振られたのだろうか。


 浮気という言葉を頭の中で反芻してしまい、胸が締め付けられたように苦しくなった。


 それでも私は、どうしようもなく先輩はそんな人を裏切るようなことをする人じゃないと信じてしまう理由がひとつだけある。


 きっと私はバカな女だ。私のようなお人好しが悪い男にいいようにもて遊ばれるんだ。


 「それでも私は、先輩は浮気してないって信じてる。そんな噂納得できないよ。もし第三者の憶測で勝手に炎上とかしてるのなら、それってひどくない」


 私の言葉を聞いて、鞠子が呆れた表情をしながらまた頭をかいて口を開く。


 「うーん、たしかに。憶測で非難するのは良くない」


 そう言ったあと「じゃあ、やろうよ」と鞠子が呟く。彼女がなにか覚悟した目でこっちを見た。


 「なにを?」と、私は頭に疑問符を浮かべ聞き返す。


 「浮気調査!」


 その言葉を聞いて、私は驚いて言葉を返す。


 「え、でも、それって流星先輩を疑うってことじゃん。私は先輩を信じたいんだけど」


 すると鞠子はすぐにこう言い返してきた。


 「なにいい女ぶってんの!男にとって都合のいい女と、良い女ってのはちがうんだよ!都合がいいだけの女になっちゃだめ!それじゃ良い女にも幸せにもなれない!結は先輩を信じてるんでしょ!だからこそ逃げずに自分の目で真実をたしかめようよ!恋愛がうまくいくコツは相手を半分信じて半分疑うこと。あ、これお姉ちゃんたちからの受け売りね」


 鞠子のその言葉が胸に刺さる。私は先輩を信じてる。だけど疑っているのも事実であって、こんなとき私ひとりで悩んでいたら、どうすればいいかなんてわからない。ただただ心が苦しいだけで、きっとなにもできずひたすらモヤモヤとしているのだろう。でも、ちゃんと対策を提案してくれた鞠子はやっぱりさすがだなと思う。


 「わかったよ。やろう浮気調査!」


 私がそう応えると、鞠子がこくりとうなずいた。