しばらくして、ふたりとも少し落ち着いてから、先輩がこっちを向いて言った。
「母さんも、結と同じこと言ってくれた。僕のことを信じてるって。本当にこの言葉に救われたんだ。もう全部がいやになって逃げ出したときでも、こんな僕を信じて応援してくれる結がいる、そう思うだけでがんばるぞって力が湧いて、なんだか心があたたかくなった。信じてるって本当にすごい力を持った言葉だと思う」
先輩の肩の荷が少しでも軽くなって、どこかほっとしているのが伝わってきて、私は嬉しかった。
伝えるなら今だな。直感的にそう思った。
今度は誤解のないように、自分の想いの全部を先輩に伝えたい。さんざん溜めて溜めて、今にも割れてしまいそうな風船のように膨れ上がったこの想いを。
そして、私は深呼吸をしたあと覚悟を決めて口を開く。
「学園祭のとき、もう関わらないでって言ってしまったのは、先輩のこときらいだったからじゃありません」
「うん。知ってる。僕が可愛くならなくていいなんて結を否定するようなことを言ってしまったからだよね。すごく自分がかっこ悪いんだけど、ほかの男子に結のこと、そういう目で見て欲しくなくて嫉妬してしまったんだと思う。子どもっぽいし、彼氏でもないのに気持ち悪いよね、あのときは本当にごめん」
誠実な眼差しをまっすぐこっちに向けてから頭を下げて謝る先輩に、私は首を横に振ってこう言った。
「たしかに私はあのとき、先輩にそう言われて感情的に怒ってしまいました。でも、もう私に関わらないでほしいって言ったのには、実はちゃんとした他の想いがあって。先輩には好きな人がいて、元カノの私が周りにいると、また悪い噂が立って先輩の恋が実らなくなってしまうと思ったからなんです」
その言葉を聞いたあと、先輩はぐっと自分の胸を手で押さえた。私は、まだまだ伝えたらなくて話をつづける。
「私たちが付き合ってるとき一ヶ月記念日で、この公園に星を見に来ましたよね。あのとき私は先輩に振られた…」
喋ってるうちに、溜め込んでた想いがどんどんとあふれ感情が入りすぎてしまい、ついため口になってしまう。
「はっきり言うけど、自分が振られた理由がぜんぜん納得できない!なに?好きかわからないって…、じゃあ、なんでそうなってしまったかちゃんと教えほしい!急にそんなこと言われたって納得できるわけない!だったら、なんで私と別れる前にキスをしてくれたの?振ったあとだって、ざんざん優しくしてくるし、思わせぶりばっかだし、どういうつもりなの?それでも、今でも先輩が好きで好きで忘れられなくて、ずっと私は困ってる!」
やっと、やっと言えた。先輩への想いも、不満も、全部伝えることできた。これで振られても、もう悔いはない。
「結、聞いてほしい」
先輩がまっすぐ私を見つめてそう言った。
「上っ面ばかりの僕だけど、指導員になりたいって夢の他にも、もうひとつどうしても譲れなかったものがあるんだ。ふたりで星を見に行ったあの夜。僕は結のことを好きかわからないと言ったけど、本当そんなことなかった。好きで好きでたまらないし、今だって、結の他に好きな子なんていない!」
先輩のその予想もしていなかった言葉に、私は電気が流れたような衝撃が受け、次に心臓がばくばくと音を立てて鳴り始める。
夢なんじゃないかと錯覚するほど驚き、ふわふわして足には力が入らない。
「うそ…。じゃあ、なんで別れようなんて言ったの?」
思考がうまく回らない頭を必死に整理してそう訊くと、先輩は真剣な表情のまま大きくて美しいその瞳で、まっすぐ私の目を見てこう答えた。
「理由があったんだ。僕がSNSを見ていたら、種高の流星の彼女を特定したってコメントを見つけてしまってね。交番に行ってお巡りさんにも相談したんだけど、僕は結の情報をSNSで出したことなんてないから特定できるわけがないし、実害が出たら警察が動きますってことで、ただの悪質な嫌がらせコメントとして様子を見ることになったんだ。僕が嫌がらせを受けるならまだしも、この先、結になにかがあったらどうしよう、そう考えたらもう我慢ができなかった。だから、自分から結を遠ざけて守ろうと思ったし、種千高校にも来るなって言ってしまったんだ。それにあのときも、進路や父さんとの不仲でごちゃごちゃあって、こんな自分じゃ結を幸せにはできないって思ってしまったんだ。勝手だったよね、ごめん」
それから先輩は一度瞼を閉じて、そっと自分の胸に手を当てる。そして、一呼吸してまた目を開き、まっすぐ私を見つめてこう言った。
「でも、今はちがう。結から信じてるって言葉をもらって。その言葉に本気で応えたいと思ってから僕は変わった」
そのとき真っ暗な夜の公園で、月明かりが先輩の顔を白く美しく照らす。
「もし結が種千高校に来て、悪い噂を聞いていやなことがあっても、不安にさせないように僕が絶対に結を守る!SNSは、もうやめる。僕はみんなからちやほやされる種高の流星になりたいわけじゃない!結の彼氏になりたいんだ!進路や父さんとことは、これからどうなるかわからないけど、それでも僕は結を幸せにしたい。別れたあともずっと結のことが大好きだった。だから、とくべつ優しくしてしまったし、思わせぶりみたいになってしまってごめん。すごく勝手なことを言ってるのも知ってる、でも、もし結さえ良ければ僕ともう一度付き合ってくださいお願いします」
先輩も私と同じ気持ちだったんだ。
私が先輩を想いつづけて悩んでる間、先輩は先輩で私を想っててくれたんだ。
「はい」
私がそう小さくうなずくと、先輩は私を優しく抱き寄せた。
真っ暗な夜の公園。月明かりがふたりを照らし、いくつもの綺麗な星が瞬く夜空の下。
私と先輩は唇を重ねた。
「母さんも、結と同じこと言ってくれた。僕のことを信じてるって。本当にこの言葉に救われたんだ。もう全部がいやになって逃げ出したときでも、こんな僕を信じて応援してくれる結がいる、そう思うだけでがんばるぞって力が湧いて、なんだか心があたたかくなった。信じてるって本当にすごい力を持った言葉だと思う」
先輩の肩の荷が少しでも軽くなって、どこかほっとしているのが伝わってきて、私は嬉しかった。
伝えるなら今だな。直感的にそう思った。
今度は誤解のないように、自分の想いの全部を先輩に伝えたい。さんざん溜めて溜めて、今にも割れてしまいそうな風船のように膨れ上がったこの想いを。
そして、私は深呼吸をしたあと覚悟を決めて口を開く。
「学園祭のとき、もう関わらないでって言ってしまったのは、先輩のこときらいだったからじゃありません」
「うん。知ってる。僕が可愛くならなくていいなんて結を否定するようなことを言ってしまったからだよね。すごく自分がかっこ悪いんだけど、ほかの男子に結のこと、そういう目で見て欲しくなくて嫉妬してしまったんだと思う。子どもっぽいし、彼氏でもないのに気持ち悪いよね、あのときは本当にごめん」
誠実な眼差しをまっすぐこっちに向けてから頭を下げて謝る先輩に、私は首を横に振ってこう言った。
「たしかに私はあのとき、先輩にそう言われて感情的に怒ってしまいました。でも、もう私に関わらないでほしいって言ったのには、実はちゃんとした他の想いがあって。先輩には好きな人がいて、元カノの私が周りにいると、また悪い噂が立って先輩の恋が実らなくなってしまうと思ったからなんです」
その言葉を聞いたあと、先輩はぐっと自分の胸を手で押さえた。私は、まだまだ伝えたらなくて話をつづける。
「私たちが付き合ってるとき一ヶ月記念日で、この公園に星を見に来ましたよね。あのとき私は先輩に振られた…」
喋ってるうちに、溜め込んでた想いがどんどんとあふれ感情が入りすぎてしまい、ついため口になってしまう。
「はっきり言うけど、自分が振られた理由がぜんぜん納得できない!なに?好きかわからないって…、じゃあ、なんでそうなってしまったかちゃんと教えほしい!急にそんなこと言われたって納得できるわけない!だったら、なんで私と別れる前にキスをしてくれたの?振ったあとだって、ざんざん優しくしてくるし、思わせぶりばっかだし、どういうつもりなの?それでも、今でも先輩が好きで好きで忘れられなくて、ずっと私は困ってる!」
やっと、やっと言えた。先輩への想いも、不満も、全部伝えることできた。これで振られても、もう悔いはない。
「結、聞いてほしい」
先輩がまっすぐ私を見つめてそう言った。
「上っ面ばかりの僕だけど、指導員になりたいって夢の他にも、もうひとつどうしても譲れなかったものがあるんだ。ふたりで星を見に行ったあの夜。僕は結のことを好きかわからないと言ったけど、本当そんなことなかった。好きで好きでたまらないし、今だって、結の他に好きな子なんていない!」
先輩のその予想もしていなかった言葉に、私は電気が流れたような衝撃が受け、次に心臓がばくばくと音を立てて鳴り始める。
夢なんじゃないかと錯覚するほど驚き、ふわふわして足には力が入らない。
「うそ…。じゃあ、なんで別れようなんて言ったの?」
思考がうまく回らない頭を必死に整理してそう訊くと、先輩は真剣な表情のまま大きくて美しいその瞳で、まっすぐ私の目を見てこう答えた。
「理由があったんだ。僕がSNSを見ていたら、種高の流星の彼女を特定したってコメントを見つけてしまってね。交番に行ってお巡りさんにも相談したんだけど、僕は結の情報をSNSで出したことなんてないから特定できるわけがないし、実害が出たら警察が動きますってことで、ただの悪質な嫌がらせコメントとして様子を見ることになったんだ。僕が嫌がらせを受けるならまだしも、この先、結になにかがあったらどうしよう、そう考えたらもう我慢ができなかった。だから、自分から結を遠ざけて守ろうと思ったし、種千高校にも来るなって言ってしまったんだ。それにあのときも、進路や父さんとの不仲でごちゃごちゃあって、こんな自分じゃ結を幸せにはできないって思ってしまったんだ。勝手だったよね、ごめん」
それから先輩は一度瞼を閉じて、そっと自分の胸に手を当てる。そして、一呼吸してまた目を開き、まっすぐ私を見つめてこう言った。
「でも、今はちがう。結から信じてるって言葉をもらって。その言葉に本気で応えたいと思ってから僕は変わった」
そのとき真っ暗な夜の公園で、月明かりが先輩の顔を白く美しく照らす。
「もし結が種千高校に来て、悪い噂を聞いていやなことがあっても、不安にさせないように僕が絶対に結を守る!SNSは、もうやめる。僕はみんなからちやほやされる種高の流星になりたいわけじゃない!結の彼氏になりたいんだ!進路や父さんとことは、これからどうなるかわからないけど、それでも僕は結を幸せにしたい。別れたあともずっと結のことが大好きだった。だから、とくべつ優しくしてしまったし、思わせぶりみたいになってしまってごめん。すごく勝手なことを言ってるのも知ってる、でも、もし結さえ良ければ僕ともう一度付き合ってくださいお願いします」
先輩も私と同じ気持ちだったんだ。
私が先輩を想いつづけて悩んでる間、先輩は先輩で私を想っててくれたんだ。
「はい」
私がそう小さくうなずくと、先輩は私を優しく抱き寄せた。
真っ暗な夜の公園。月明かりがふたりを照らし、いくつもの綺麗な星が瞬く夜空の下。
私と先輩は唇を重ねた。


