次の日。ぜんぜん連絡を返さない私の様子がおかしいことに気づいた鞠子が、心配して電話をかけてきてくれたので、我慢できなくなって泣きながら学園祭であったことを、全部打ち明けて彼女に相談した。
話を聞きながら、鞠子はうんうんとうなずいてくれる。つらいとき、こうやって話を聞いてくれる友達の存在というのは本当にありがたい。そのうえ鞠子は、いつも的を得たアドバイスまでくれて本当に頼りになる親友だ。
「もう関わらないでか…」
鞠子が口に出して、私が先輩に言ってしまった言葉を反芻した。次に彼女は真剣な声色でこう言った。
「結のその言い方だと、もうきらいだから私に関わらないでってことに聞こえるけど本当にそうなの?あと結は、いちばん最初に私に言ったよね、流星先輩を信じてるって。高校での先輩の姿が自分の思ってたふうとちがったから、もう信じられなくなっちゃったの?」
私はすぐに「ちがう」と呟いて唇を噛んだ。でも、それは時間が経ったからで、あのときはとてもそうは思えなかった。
全部を上手く言葉にできないけど、私は先輩のことが今でも好きだ。あのときは頭にきた勢いのまま言葉をぶつけてしまった。
たしかに先輩の高校での雰囲気のちがいには驚いたけど、私が見てきた先輩だって嘘じゃないはず。みんなが勝手に噂してる先輩ではなく、自分が今まで見てきた先輩を私は信じている。
でも、先輩の近くに自分がいてはいけないと思い「先輩には好きな人がいて私が側にいると、きっと迷惑なの」と呟くと、鞠子が「ふーん。なら、このまま流星先輩に誤解されたままでいいの?」とストレートに訊いてきた。
「良くない」
私はスマホ越しに首を振って即答する。
「じゃあ、自分の想いを誤解のないように全部流星先輩に伝えなきゃね。言葉足らずはだめだよ」
鞠子のその言葉にぽんと背中を押された気がして、「ありがとう」とお礼を言って電話を切った。
しかし、どうやって先輩とまた話せばいいのだろう。私がひどいことを言ってしまったわけだし、もう先輩と話せるチャンスなんてないのかもしれない、そう思っていたが、そのチャンスはすぐにやって来た。
夕方。スマホの着信が鳴って確認すると華絵さんからだ。華絵さんとは、学童に行ったとき何度か話したことがあるし、連絡先も交換してあった。
「はい。星尾です」
私が電話をとると、「もしもし、尾白伊だけど、結ちゃん。今、ちょっといい?」と、少し焦った様子の華絵さんの声がした。
「大丈夫です。どうしましたか?」
「あのさ、流星のことなんだけど、昨日学祭が終わったあとの打ち上げに来なかったの。心配になって、さっき家に様子見に行ったんだけど、昨日から帰ってきてないって流星の弟君が教えてくれた。学園祭で流星が桜舞中の子を連れてたって友達から聞いたんだけど、それって結ちゃんのことだよね。なにか流星のこと知らない?」
急な話でびっくりしたし、先輩の安否が心配になる。とりあえず、私は華絵さんに昨日あったことを全部話した。
すると、「流星のほうから結ちゃんにライブ来てって誘ったんだよね」と華絵さんが小さく呟いた。
「はい。そうです」
「あのね、結ちゃん。流星は歌やギターを今まで誰かに評価してもらいたくてやってきたことは一度もないの。SNSや学園祭のライブだって軽音部を盛り上げるための活動で、流星が進んでやってるわけじゃないの」
え、あんなに上手なのに?SNSもバズっていて種高の流星とみんなからもてはやされているのに?なぜだろうと私は疑問に思う。
「流星にとって歌やギターというのは、あくまで小学生のとき亡くなってしまったお母さんとの思い出を振り返ることでしかないの。その流星がライブに来てほしいって言ったのは、やっぱり結ちゃんに、とくべつな想いがあるからだと思う」
知らなかった先輩の真実を教えてくれた華絵さんは、真剣な声色でこう訊いてきた。
「結ちゃん、あなたにとって流星はどんな人?ただの元カレ?完璧イケメン種高の流星?噂通りの女遊びする浮気男?それとも、学童での優しいお兄ちゃん?」
私は迷わず、正直に答える。
「私が見てる先輩は先輩です。みんなが見てる先輩のイメージは関係ないです。私は今でも先輩を好きだし、先輩という人を信じています。それだけです」
電話越しから、ははっと華絵さんの笑い声が聞こえた。
「結ちゃんってさ。ただ顔がいい男を追っかけるだけの子だと思ってた。でも本当は人を見る目があるし、自分を持ってて、人を信じてあげる勇気があるんだね。流星は悩んだとき、いつも桜舞公園にいる。結ちゃんに電話したのは私が彼のもとに行くべきなのか迷ったから。きっと、私は欲しいものを手に入れるためなら他人を傷つけてもいい。そんなことをしてしまうから流星に選ばれなかったんだろうな。私は本当にバカだな。ありがとう、結ちゃん」
そう言って華絵さんは電話を切った。彼女の声は最後のほうひどく嗚咽していた。
話を聞きながら、鞠子はうんうんとうなずいてくれる。つらいとき、こうやって話を聞いてくれる友達の存在というのは本当にありがたい。そのうえ鞠子は、いつも的を得たアドバイスまでくれて本当に頼りになる親友だ。
「もう関わらないでか…」
鞠子が口に出して、私が先輩に言ってしまった言葉を反芻した。次に彼女は真剣な声色でこう言った。
「結のその言い方だと、もうきらいだから私に関わらないでってことに聞こえるけど本当にそうなの?あと結は、いちばん最初に私に言ったよね、流星先輩を信じてるって。高校での先輩の姿が自分の思ってたふうとちがったから、もう信じられなくなっちゃったの?」
私はすぐに「ちがう」と呟いて唇を噛んだ。でも、それは時間が経ったからで、あのときはとてもそうは思えなかった。
全部を上手く言葉にできないけど、私は先輩のことが今でも好きだ。あのときは頭にきた勢いのまま言葉をぶつけてしまった。
たしかに先輩の高校での雰囲気のちがいには驚いたけど、私が見てきた先輩だって嘘じゃないはず。みんなが勝手に噂してる先輩ではなく、自分が今まで見てきた先輩を私は信じている。
でも、先輩の近くに自分がいてはいけないと思い「先輩には好きな人がいて私が側にいると、きっと迷惑なの」と呟くと、鞠子が「ふーん。なら、このまま流星先輩に誤解されたままでいいの?」とストレートに訊いてきた。
「良くない」
私はスマホ越しに首を振って即答する。
「じゃあ、自分の想いを誤解のないように全部流星先輩に伝えなきゃね。言葉足らずはだめだよ」
鞠子のその言葉にぽんと背中を押された気がして、「ありがとう」とお礼を言って電話を切った。
しかし、どうやって先輩とまた話せばいいのだろう。私がひどいことを言ってしまったわけだし、もう先輩と話せるチャンスなんてないのかもしれない、そう思っていたが、そのチャンスはすぐにやって来た。
夕方。スマホの着信が鳴って確認すると華絵さんからだ。華絵さんとは、学童に行ったとき何度か話したことがあるし、連絡先も交換してあった。
「はい。星尾です」
私が電話をとると、「もしもし、尾白伊だけど、結ちゃん。今、ちょっといい?」と、少し焦った様子の華絵さんの声がした。
「大丈夫です。どうしましたか?」
「あのさ、流星のことなんだけど、昨日学祭が終わったあとの打ち上げに来なかったの。心配になって、さっき家に様子見に行ったんだけど、昨日から帰ってきてないって流星の弟君が教えてくれた。学園祭で流星が桜舞中の子を連れてたって友達から聞いたんだけど、それって結ちゃんのことだよね。なにか流星のこと知らない?」
急な話でびっくりしたし、先輩の安否が心配になる。とりあえず、私は華絵さんに昨日あったことを全部話した。
すると、「流星のほうから結ちゃんにライブ来てって誘ったんだよね」と華絵さんが小さく呟いた。
「はい。そうです」
「あのね、結ちゃん。流星は歌やギターを今まで誰かに評価してもらいたくてやってきたことは一度もないの。SNSや学園祭のライブだって軽音部を盛り上げるための活動で、流星が進んでやってるわけじゃないの」
え、あんなに上手なのに?SNSもバズっていて種高の流星とみんなからもてはやされているのに?なぜだろうと私は疑問に思う。
「流星にとって歌やギターというのは、あくまで小学生のとき亡くなってしまったお母さんとの思い出を振り返ることでしかないの。その流星がライブに来てほしいって言ったのは、やっぱり結ちゃんに、とくべつな想いがあるからだと思う」
知らなかった先輩の真実を教えてくれた華絵さんは、真剣な声色でこう訊いてきた。
「結ちゃん、あなたにとって流星はどんな人?ただの元カレ?完璧イケメン種高の流星?噂通りの女遊びする浮気男?それとも、学童での優しいお兄ちゃん?」
私は迷わず、正直に答える。
「私が見てる先輩は先輩です。みんなが見てる先輩のイメージは関係ないです。私は今でも先輩を好きだし、先輩という人を信じています。それだけです」
電話越しから、ははっと華絵さんの笑い声が聞こえた。
「結ちゃんってさ。ただ顔がいい男を追っかけるだけの子だと思ってた。でも本当は人を見る目があるし、自分を持ってて、人を信じてあげる勇気があるんだね。流星は悩んだとき、いつも桜舞公園にいる。結ちゃんに電話したのは私が彼のもとに行くべきなのか迷ったから。きっと、私は欲しいものを手に入れるためなら他人を傷つけてもいい。そんなことをしてしまうから流星に選ばれなかったんだろうな。私は本当にバカだな。ありがとう、結ちゃん」
そう言って華絵さんは電話を切った。彼女の声は最後のほうひどく嗚咽していた。


