私の名前は星尾結。名古屋市内の桜舞中学に通う平凡な中学三年生。


 スポーツや勉強が人よりできるわけではなく、顔だって可愛いわけじゃない。性格もぱっとしない地味なほうで、それなのに変に頑固なところもあって、本当はみんなに愛想良くできたほうが可愛いのにと思っている。


 そんな私にはコンプレックスがある。一重瞼だ。


 一重瞼だと、どうしても目が腫れぼったく小さく見えてしまう。本当は私だって可愛いぱっちり二重が良かった。


 それでも、ひょんなことから私には初彼氏ができた。


 最近、ある男子高校生のちょっぴり懐メロなギターの弾き語りが完璧イケメンだと騒がれSNSで大バズりしている。そのアカウント名は『種高の流星』


 種高というのは、市内にある種千高校のことで、わりと近くに住んでいるということは知っていたけど、なんと家から目と鼻の先の桜舞公園で、私はその種高の流星と出会ってしまったのだ。


 私が日曜日、運動不足解消とダイエットを兼ねて桜舞公園を散歩していると、芝生からそよ風に乗って旋律が聞こえてきた。


 気になって音が聞こえてくるほうに足を運ぶと、ベンチに座る男子高校生がいて、その手に抱かれたアコースティックギターの音、低音で聴き心地のいい彼の甘い歌声が音楽に溶け込むその姿は、夜空に煌めく星のように神秘的で美しく思えた。


 私は思わず立ち止まって、彼の弾き語りを聴き入ってしまう。


 ギターの弦を弾くたびに垂れる前髪が、彼の瞳を一瞬隠す。


 その瞳が微かにこちらを捉えた瞬間、私の胸が急にどきどきと高鳴る。


 旋律に乗せられた彼の存在感は、顔立ちがいいただのイケメンという言葉ではとても片付けられない。


 流れる水のように滑らかで音楽と一体となって、周囲の空気さえも彼色に染め上げている、そんな気がした。


 私はすぐに彼が誰なのか気づいた。目の前にいるのは今SNSで大バズりしている種高の流星だ。


 すると、彼が演奏する手を止めてこっちをじっと見た。


 「あ、ごめんなさい。勝手に聴いてしまって、すごく素敵な演奏だったから、つい」と、私は咄嗟に口を開く。


 すると彼はなにも考えていないような無邪気な目をして、「可愛い」と唐突に呟いた。


 え?それって私のこと?と思わず期待してしまうが、すぐに彼は「その星形のネックレスって、あのインディーズバンドのグッズだよね」と目を輝かせて言った。


 「そ、そうです。知ってるんですか?」


 可愛いと言ってもらえたのが、私じゃなくてこのネックレスなのは、少し残念だけど、このネックレスを作ったインディーズバンドを知っている人はなかなかいないので、知っている仲間に出会えた気がして嬉しくなった。


 向こうも同じことを思っていたようで、「うっわー。あのバンド知ってる人と初めて出会った。僕も好きなんだよ」と興奮気味の様子。


 そのまま、ふたりで意気投合し自己紹介をしたあと、好きな音楽アーティストや漫画の話をたくさんした。


 私が自分の名前を名乗ると、彼はなぜか少し驚いた顔をした。


 彼の名前は犬塚流星。種千高校に通う高校二年生。わかっていたけど一応訊ねてみたら、やっぱり彼が種高の流星だった。


 いつも日曜日は、この桜舞公園で弾き語りの練習をしているそうだ。ついでにSNSで使う動画もここで撮っているらしい。


 SNSでバズっているような人気者なので、華やかで明るい人なのかと思ったけど、話してみるとわりと落ち着いていて大人っぽさを感じた。


 SNSのアカウントも、もともとは廃部寸前の軽音部を存続させるための宣伝で始めたら、信じられないほどバズってしまったらしい。


 種高の流星というアカウント名も、もともと周りが彼をそう呼んでいるあだ名だったらしい。


 本人は気づいていないが周りが種高の流星というあだ名をつけたくなるのがわかるほど、イケメンで華やかなオーラを持っていて私は感服してしまう。


 それから、純粋に流星先輩と音楽や漫画の話をしたかったから練習の邪魔にならない程度に私は毎週桜舞公園に通うようになった。


 しかし一緒にいると、やっぱり下心のほうが大きくなってしまい。完全に好きバレしてしまっていると思い私から告白をした。


 すると、初めは驚いた顔をした流星先輩だったがあっさりオッケーしてくれて、私たちは付き合うことになったのだ。