夕方。川遊びが終わったあとは、バンガローで着替えてから夕食の準備が始まった。


 流星先輩は慣れた手つきでカレーに入れる野菜を包丁で切っていく。包丁の持ち方が危うい子がいたら、「包丁持つときは猫の手だからね」と優しく教えてあげている先輩に、私は「すごく慣れてますね。もしかして普段から料理とかするんですか?」と訊いてみた。


 「うん。平日はだいたい僕が夕食作ってるんだ」


 先輩がさらっとそう答えたので私は驚いた。


 さすが完璧イケメンと周りから言われている先輩だ。料理までできてしまうのか。自分なんて小学生の頃は、たまに遊びの延長でママの料理の手伝いをしていたけど、中学生になってからはまったく手伝うこともなくなった。


 そんな自分と比べ、「先輩って親孝行なんですね」と褒めたつもりで言ったのに、先輩はその言葉を聞くと「僕なんて、ぜんぜん親孝行じゃないから」と顔色を少し曇らせた。


 次にカレーを煮たり飯盒炊飯をするための、火をおこしを竈でした。


 蒼君と茜君が、自分たちの竈になかなか火がつかず困っていると、流星先輩が枯れ葉と枝をたくさん拾ってきてこう言った。


 「上手く火種から薪に火がついてないんだよ。まず、こうやって燃えやすい松ぼっくりとかを燃やして」


 そう言いながら先輩が、枯れ葉の山に松ぼっくりを何個も入れて火をつけると、松ぼっくりがバチバチと音を立てて燃え始める。


 それを見た蒼君と茜君が、「すげえ!爆発してるみたい!」と目を輝かせて口を揃えて言った。


 先輩が手伝うと順調に薪に火がつき、勢いよく火柱が竈に上がる。


 「よし。これなら、しばらく火は消えない。やけどしないように気をつけてカレーのつづきを作るんだよ」


 先輩がそう言うと、「ありがとう、流星君」と蒼君と茜君がにこにこ笑顔でお礼を言った。


 私はその様子を見ていて、本当に先輩はなんでもやれてしまうんだなと心底感心する。完璧イケメン種高の流星は、本当にその言葉通りの姿なのだ。きっと流星先輩は、私なんかとちがってやれることよりもやれないことを探すほうが難しいのだろう。


 顔はイケメンで、周りの人みんなに優しくて、いろんなことが上手にできてしまう。神様は不平等に人に才能を与える。きっと恵まれた流星先輩はなんの悩みもなく順風満帆な人生をこれからも送っていくのだろう。


 カレー作りが終わると、広場の真ん中でみんなで夕食を食べた。


 子どもたちは仲の良い友達同士、保護者も指導員も和気あいあいと話しながら食事を楽しむ中、私は上手くその中に入ることができず、広場の隅っこの丸太に座って紙コップのお茶を飲んで休憩していた。


 そのとき、「結、お疲れっ」と明るい声が降ってきて顔を上げると、紙皿に入ったカレーをふたつ持った先輩が立っていた。


 「これ、結のぶん」


 そう言って先輩は片方のカレーを差し出し、私は受け取って「ありがとうございます」とお礼をした。


 先輩がとなりに腰を下ろす。私は意識してしまい上手く話せそうにないので、無言で一口カレーを食べる。すると、驚くほど美味しくて「え、このカレーすごく美味しいっ」と思わず声が出てしまう。


 先輩はにこにこ笑いながら、「でしょ。こうやってみんなで楽しく作って自然の中で食べるカレーって最高に美味しんだ」と言った。


 夕食の後片付けをしたあとは、子どもたちがキャンプに向けて夏休み前から練習していた出し物が始まる。


 緑莉ちゃんたち低学年の子はダンス。蒼君や茜君たち高学年の子はトーチトワリングを披露した。


 朝陽さんは、いっしょうけんめい練習してきた出し物を披露する子どもたちを、目を細めて見つめている。 


 無事、子どもたちの出し物が終わると、今日の最後に花火やキャンプファイヤーをみんなで楽しんだ。