夏休みも残すところ、あと二週間。流星先輩からのDMが届き、私は部屋でやっていた受験勉強の手を止める。
【来週の土日なんだけど、一緒にキャンプ行かない?もちろん、結の受験勉強に差し支えなければだけど】
まさかふたりで行くの?お泊まり?いや、そんなの無理無理無理。
初めはそう焦ったけど、まだ学生だしそんなわけがないと落ち着いてからDMで詳しく聞くと、どうやら学童のイベントでキャンプがあるらしい。
岐阜県N市の山奥で一泊二日のお泊まりキャンプ。正直、私はアウトドアなど行ったことがないし、学童にも数回行っただけでまだ慣れてるわけじゃないし、楽しめる自信がなかった。
それでも【結と一緒に行ったら楽しいかなーって、思い切って誘ってみたんだ】という先輩の言葉に動かされ、私はキャンプに行くことにした。
キャンプ当日。朝、早くから学童の前に集まると、子どもたち、その付き添いで来ている保護者のお父さんやお母さん、指導員たちがいた。華絵さんの姿は見当たらなかった。
そこらか送迎バスに乗って三時間半。やっとキャンプ場に到着した。
バスを降りると、見渡す限り緑の山と青い空が壮大にどこまでも広がる。
山のふもとに予約したキャンプ場があって、その一角には団体客用の広場があった。
この広場と周辺のバンガロー、BBQ用の竈やキッチンを学童が借りることになっている。
土手の向こうには浅くて水が綺麗な川が流れていて、バンガローに各自荷物を置いたあと、まずは川遊びが始まった。
朝陽さんは、きっと濡れるからと水着に着替えて白い上着を羽織ったが、私はそんなに濡れることもないだろうと、白Tシャツにショートパンツのまま川遊びをすることにした。
川遊びが始まってすぐに「朝姉ーっ!こっち来て!でかい魚いる!シーラカンスかも、絶滅してなかった!」と、蒼君と茜君のふたりが朝陽さんを呼ぶ。
「あんたたちねー!シーラカンスは絶滅してないし、深海魚で海にいるんだよ」
そう言って近づいた朝陽さんの顔面に、「今だ!」とふたりが容赦なく手で水をバシャっとかけた。
「わーい!ひかかった!ひかかったー!」とハイタッチをして喜ぶふたりに怒ることもなく、「やったなー!お返しだー!」と朝陽さんも水をかけ返す。
蒼君も茜君も冷たい川の水をかけられ、「ぎゃーっ」と叫びながらきゃっきゃと笑う。そのまま三人で水かけあっこが始まった。
そのとき、私はあることに気づく。ぱっちり二重瞼で可愛かった朝陽さんの目が一重になっているのだ。
朝陽さん、アイプチだったんだ。すごくナチュラルでぜんぜん気づかなかった。
ぼーっとそんなことを考えていたら、「次は結ちゃんだー」という蒼君と茜君の声が聞こえたかと思うと、こっちに水が飛んできた。
私は水をかけられた拍子に驚いて、「ひゃっ」と変な声を出し足が滑って川に尻もちをついてしまう。
すると片方のサンダルが脱げて、下流のほうに流れてしまった。あー、なにやってんだろ私。本当にドジだなぁ。
少し自虐気味にそう思っていたら、ちょうど下流のほうにいた流星先輩が、流されるサンダルを見事にキャッチして持ってきてくれた。
「結、大丈夫?」
尻もちをついた私を優しく気遣いながら手を差し伸べる先輩。私は先輩の手を借りて立ち上がると、「ありがとうございます。大丈夫です。ちょっと驚いただけで怪我もしてないです、ははは」と苦笑いをした。
「大丈夫なら良かった」
そう言って先輩はにこっと笑ったあと、近くの岩に置いてあった自分の大きいタオルをさりげなく私の肩にかけてくれた。
そのとき私は、自分が水で濡れて下着は透け、体のラインも丸見えになっていることに気づく。恥ずかしい気持ちはあったけど、それより先輩のさりげない優しさが嬉しかった。
次に先輩は、「こら、蒼と茜。結は朝陽さんとはちがうんだから気をつけるんだよ」とふたりを注意する。
「結ちゃん、ごめんね」と蒼君が謝ると、つづけて「ごめん。朝姉とはちがうから気をつける」と茜君も頭を下げた。
「ぜんぜんいいの、気にしないで。こっちこそ、ごめんね。私、川遊び初めてで慣れてなくって」
私がそう言うと、「じゃあ、結ちゃんに綺麗な石があるとこ教えてあげる」「俺は、結ちゃんに水切りのやり方教えてあげる」と、蒼君と茜君の顔がぱっと明るくなった。
次にうしろから。
「ねー、流星君。朝陽さんとはちがうってどういう意味?私がか弱くないってこと?ちゃんと教えてほしいな」
朝陽さんが眉間にしわを寄せてそう問い詰めると、「ち、ちがうんです。慣れてるって意味で言ったんですって」と慌てる流星先輩。
「ふーん」と朝陽さんが不服そうな顔を浮かべ、はははと先輩がそれを見て苦笑いした。
そんなふたりのやりとりを見て周りのみんなは笑っていたけど、私の心はどうしようもなくモヤっとしてしまう。仲良しなふたりが痴話喧嘩をしているようにしか見えなかったからだ。
【来週の土日なんだけど、一緒にキャンプ行かない?もちろん、結の受験勉強に差し支えなければだけど】
まさかふたりで行くの?お泊まり?いや、そんなの無理無理無理。
初めはそう焦ったけど、まだ学生だしそんなわけがないと落ち着いてからDMで詳しく聞くと、どうやら学童のイベントでキャンプがあるらしい。
岐阜県N市の山奥で一泊二日のお泊まりキャンプ。正直、私はアウトドアなど行ったことがないし、学童にも数回行っただけでまだ慣れてるわけじゃないし、楽しめる自信がなかった。
それでも【結と一緒に行ったら楽しいかなーって、思い切って誘ってみたんだ】という先輩の言葉に動かされ、私はキャンプに行くことにした。
キャンプ当日。朝、早くから学童の前に集まると、子どもたち、その付き添いで来ている保護者のお父さんやお母さん、指導員たちがいた。華絵さんの姿は見当たらなかった。
そこらか送迎バスに乗って三時間半。やっとキャンプ場に到着した。
バスを降りると、見渡す限り緑の山と青い空が壮大にどこまでも広がる。
山のふもとに予約したキャンプ場があって、その一角には団体客用の広場があった。
この広場と周辺のバンガロー、BBQ用の竈やキッチンを学童が借りることになっている。
土手の向こうには浅くて水が綺麗な川が流れていて、バンガローに各自荷物を置いたあと、まずは川遊びが始まった。
朝陽さんは、きっと濡れるからと水着に着替えて白い上着を羽織ったが、私はそんなに濡れることもないだろうと、白Tシャツにショートパンツのまま川遊びをすることにした。
川遊びが始まってすぐに「朝姉ーっ!こっち来て!でかい魚いる!シーラカンスかも、絶滅してなかった!」と、蒼君と茜君のふたりが朝陽さんを呼ぶ。
「あんたたちねー!シーラカンスは絶滅してないし、深海魚で海にいるんだよ」
そう言って近づいた朝陽さんの顔面に、「今だ!」とふたりが容赦なく手で水をバシャっとかけた。
「わーい!ひかかった!ひかかったー!」とハイタッチをして喜ぶふたりに怒ることもなく、「やったなー!お返しだー!」と朝陽さんも水をかけ返す。
蒼君も茜君も冷たい川の水をかけられ、「ぎゃーっ」と叫びながらきゃっきゃと笑う。そのまま三人で水かけあっこが始まった。
そのとき、私はあることに気づく。ぱっちり二重瞼で可愛かった朝陽さんの目が一重になっているのだ。
朝陽さん、アイプチだったんだ。すごくナチュラルでぜんぜん気づかなかった。
ぼーっとそんなことを考えていたら、「次は結ちゃんだー」という蒼君と茜君の声が聞こえたかと思うと、こっちに水が飛んできた。
私は水をかけられた拍子に驚いて、「ひゃっ」と変な声を出し足が滑って川に尻もちをついてしまう。
すると片方のサンダルが脱げて、下流のほうに流れてしまった。あー、なにやってんだろ私。本当にドジだなぁ。
少し自虐気味にそう思っていたら、ちょうど下流のほうにいた流星先輩が、流されるサンダルを見事にキャッチして持ってきてくれた。
「結、大丈夫?」
尻もちをついた私を優しく気遣いながら手を差し伸べる先輩。私は先輩の手を借りて立ち上がると、「ありがとうございます。大丈夫です。ちょっと驚いただけで怪我もしてないです、ははは」と苦笑いをした。
「大丈夫なら良かった」
そう言って先輩はにこっと笑ったあと、近くの岩に置いてあった自分の大きいタオルをさりげなく私の肩にかけてくれた。
そのとき私は、自分が水で濡れて下着は透け、体のラインも丸見えになっていることに気づく。恥ずかしい気持ちはあったけど、それより先輩のさりげない優しさが嬉しかった。
次に先輩は、「こら、蒼と茜。結は朝陽さんとはちがうんだから気をつけるんだよ」とふたりを注意する。
「結ちゃん、ごめんね」と蒼君が謝ると、つづけて「ごめん。朝姉とはちがうから気をつける」と茜君も頭を下げた。
「ぜんぜんいいの、気にしないで。こっちこそ、ごめんね。私、川遊び初めてで慣れてなくって」
私がそう言うと、「じゃあ、結ちゃんに綺麗な石があるとこ教えてあげる」「俺は、結ちゃんに水切りのやり方教えてあげる」と、蒼君と茜君の顔がぱっと明るくなった。
次にうしろから。
「ねー、流星君。朝陽さんとはちがうってどういう意味?私がか弱くないってこと?ちゃんと教えてほしいな」
朝陽さんが眉間にしわを寄せてそう問い詰めると、「ち、ちがうんです。慣れてるって意味で言ったんですって」と慌てる流星先輩。
「ふーん」と朝陽さんが不服そうな顔を浮かべ、はははと先輩がそれを見て苦笑いした。
そんなふたりのやりとりを見て周りのみんなは笑っていたけど、私の心はどうしようもなくモヤっとしてしまう。仲良しなふたりが痴話喧嘩をしているようにしか見えなかったからだ。


