君が星を結ぶから

 とんでもない場面に立ち会ってしまった。私はすぐにその場を離れようとしたが、「結、なにやってるの?」とうしろから先輩に声をかけられ服の袖をつかまれる。


 見つかってしまった。言い逃れなんてできない。それに盗み聞きをしてしまったという罪悪感に、もう自分が耐えられそうにない。


 「勝手に盗み聞きしてごめんなさい」


 すぐに私は頭を下げて謝罪をする。


 すると先輩はあっけらかんと、「あー、ぜんぜん気にしてないからいいよ」とさっきの華絵さんへの冷たい対応が嘘かのように、優しい笑顔を私に向けてくれた。


 次に、「ここで会ったのもなにかの縁だね。せっかくだから、一緒にお祭りまわろうよ」と言った先輩。


 え、朝陽さんという人がいるのに?私なんかと一緒にお祭りまわっていいの?そう疑問に思ったが、まだ、ふたりは付き合ってないのかもと、すぐ自分を納得させた。


 それにしても先輩は、好きな人がいるのに私なんかとお祭りをまわって楽しいのだろうか。でも、先輩に誘ってもらえたことが悔しいけど私は嬉しくてたまらない。


 あ、でも…。私は本来の祭りに来た目的を思い出し、「私、風邪引いて今日来れなくなっちゃった友達に、これからりんご飴を買って届けたくて」と呟いた。


 はぁ、せっかく誘ってくれたのに、先輩にノリの悪いやつだと思われてしまうかもしれない。


 そう思って先輩の顔色を伺うと、「やっぱ結は友達想いで優しいなぁ。じゃあ、りんご飴以外でひとつだけでいいから、僕ともどこか屋台に付き合ってくれない?お願い、結」と、甘えるような目を私に向けてにこっと微笑みねだるように頼んできた。


 はぁ、相変わらず先輩の整った顔はとんでもない破壊力をしている。


 それにしても、そんなに行きたい屋台があるのかな。だったら、ひとりで行けばいいのに。疑問に思いながら「わかりました。先輩はどこか行きたい屋台があるんですか?」と私は訊ねる。


 すると、「結の行きたいとこが、僕の行きたいとこなんだぁ。ごめん、実はちょっとでも一緒にいたいなって思っちゃっただけなんだ。結は友達のとこ行かなきゃだし、迷惑だったら無理にはやめとく」と、夜空に煌めく星のようにキラキラ微笑んで言った。


 私は首を横にふりふりと振る。


 そのあと先輩との時間が楽しすぎて、かき氷をふたりでつつきながら、少しだけ話し込んでしまった。


 りんご飴を買って鞠子の家に持って行くと、熱がだいぶ下がってベッドから起き上がった鞠子に「ずいぶん遅かったね」と首を傾げられたので、私は祭りであった出来事を話す。


 すると鞠子が、「えーっ!?そんなんなら、お見舞い来なくて良かったのにー!流星先輩と最後まで一緒にいてほしかったー」と悔しがった。


 「なんで鞠子が悔しがるの」と私が噴き出すと、「もう、それはいけたよ。絶対いけたわ」と鞠子が鼻息荒く言って、ふたりで笑った。


 鞠子は脈ありと言ってくれるけど、流星先輩の想いはきっと朝陽さんに向いているのだろうなと考えてしまいちくりと胸が痛んだ。