この夢がきみに喰われても

「ただいま」

「おかえり恵夢ー」

 放課後、部活に所属していない私は真っ直ぐに自宅へと帰る。時刻はまだ夕方の五時で、共働きの両親は仕事から帰ってきていない。代わりに出迎えてくれたのは今年大学一年生になった兄の恵太(けいた)だ。

「母さん、今日もちょっと遅くなるんだって」

「そうなんだ。分かった。ご飯は作り置き?」

「ああ。冷蔵庫に入ってるからそれ食べててって」

「はーい」

 兄は私に必要なことだけ告げると部屋に戻っていった。
 大学生ともなれば、たとえ夕方のこの時間に授業がなくても、友達とやりたいことだってあるはずだ。それでも兄は、毎日とは言わないがこうして私が帰ってくる時間に合わせて在宅してくれることが多い。兄なりの気遣いだと分かっていて、私は兄にはとても感謝している。

 まだ夕飯には早い時間だったので、自室に篭り宿題を済ませる。
 学校のことを考えると、自然と今日三年一組にやってきた羽鳥結叶のことが頭に浮かんだ。自分とは全然関わりのない人だと思っていたのに、意味深に名前を呟かれてから、胸にもやもやとした霧みたいなものがかかっている。

「気にしちゃダメだよね」

 他人からの悪意に満ちたまなざしに慣れてしまった私は、誰かから向けられる感情に敏感になってしまっている。と自分でも自覚してはいるのだけれど。
 病気にかかってからというもの、どうにもスルーすることができないでいた。

 数学、英語の宿題を済ませると、今日のノルマは達成することができた。
 午後七時、両親はまだ帰っていないので、兄と共に食卓についた。冷蔵庫には私の大好きなハンバーグが入っていた。

「いただきます」

 二人だけの食卓で静かに手を合わせる。兄はスマホをいじりつつご飯を食べ始めたが、途中でスマホをテーブルの上に置いた。