「羽鳥結叶くん、内藤恵夢さんに自らの夢を差し出すことに同意していただけますか」

「はい、同意します」

 さらさらと、結叶がペンで同意書にサインをする音が病室に響く。彼が名前を書き終えるのを、固唾をのんで見守っていた。
 家族に治療の話をしてから一週間、ようやく治療の日を迎えた。

「続いて内藤恵夢さん、羽鳥結叶くんの夢を治療にあてることに同意していただけますか」

「はい」

 結叶と同じように、書類に署名を施す。病院に来る前は震えていた身体が、同意書を前にしてようやく落ち着いた。

「それでは今から内藤さんに羽鳥くんの夢を与える治療をします。リラックスできるように、治療はこちらの病室で行います。いいですね?」

 私と結叶が同時に頷く。治療とはいえ外科的な処置をするわけではないので、実施する部屋はどこでも大丈夫なんだそうだ。
 医者と看護師に言われるがまま、私と結叶は隣同士のベッドに寝転んだ。頭に特別な装置を装着する。ヘルメットのようなそれはずっしりと重く、ヘッドの部分からはいくつもの管が伸びていた。その管の先が結叶の装置と繋がっている。こんな装置で治療をするのかという驚きと、これからどうなるんだろうという不安が半分ずつ。
 結叶がそっと私の方に手を伸ばしてきた。私はその手をおずおずと握る。温かい。彼がくれる温もりはいつだって最上級の温かさだった。

「大丈夫だ。きっと成功する」

「……うん、そうだね」

 力強い彼の言葉に励まされて、治療開始の時を迎える。
 神様、どうか。
 どうかこの治療が成功しますように。
 そして、彼の夢が失われても、彼が前を向いて生きていけますように。
 私たちに、力をください。
 これから迎える試練を乗り越えていけるだけの力をください。