この夢がきみに喰われても

 私は、美結ちゃんの病気と、彼が思い描いている夢と、昨日の美結ちゃんの様子をすべて伝えた。家族みんな、私の伝える言葉に一つ一つ頷きながら噛み締めるようにして聞いてくれた。

「……とういうわけなの。だから結叶は、私に夢をたべてほしいって言ってくれてる。私のことを、大切に思ってくれるから」

 さすがに、彼に好きだと言われたことは伏せておいた。それでも「大切に思ってくれている」と話すだけで恥ずかしく、顔が熱くなる。両親も兄も、目を潤ませて最後まで私から目を逸さなかった。
 やがて話を聞き終えた母がゆっくりと口を開く。

「……分かったわ。恵夢のことをそんなに大事にしてくれる人がいて、真剣に自分の夢と向き合って提案してくれているなら、その結叶くんの想いも無碍にできない。お母さんも、結叶くんの夢をいただくことに賛成する」

「お母さん……」

 兄と、母と。治療に賛成してくれたことが心から嬉しい。最後の砦である父の方をじっと見ると、父も「分かってる」と頷いた。

「俺だってなあ、本当はすぐに治療するべきだって言いたかったんだよ。でも相手の子の家族のことも考えたら手放しでは喜べなかったんだっ。娘の病気を治すのに協力してくれてるっていう人が現れて、嬉しくない親がいるかよ」

 涙ながらに訴える父の言葉を聞いて私は安心した。
 これで、結叶から夢をいただく心の準備はできた。あとは結叶が伯父さんに同意してもらって実行するだけだ。
 胸に広がっていた不安はいつのまにか溶けてなくなっていた。久しぶりに家族全員の顔に笑顔が戻っていく。まだ病気が治ったわけでもないのに、その瞬間、失っていた時間を取り戻したみたいに私の胸の中にも灯火がともっていった。