この夢がきみに喰われても

「優しい友達がいるもんだな。でも父さんは、今すぐにやってみなさいとは言いづらいな……。その子の将来に関わることだし、親御さんだって説得するの、大変じゃないか。もちろん、恵夢の病気を治したいという気持ちが一番強い。でもだからこそ、恵夢と同じ歳の子から大事な夢を奪うことを考えると、正直辛い」

「お父さん……」

 父の発言はもっともだ。
 誰だって夢を思い描くことは素晴らしいことだと思う。そんな大切な夢を、たとえ見知らぬ子供からでも、奪いたくない。私のことを大切に思ってくれるからこその意見だ。

「俺は、その友達の夢をもらってもいいんじゃないかと思う」

 ふと飛んできた兄の言葉に、私と父、母がはっと顔を見合わせる。
 兄は神妙な顔つきで私をそっと窺う。
 今まで、一番近くで私を心配し、勇気づけてくれた兄がそこにいた。

「俺の友達の父親が、夢欠症について研究してるって言ったじゃん。治療するには、やっぱり誰かの夢が必要なんだって言ってた。それに、もし治療しなかったら……三年以上の生存率が三十%だって、分かったそうだ」

「え……?」

 知らない情報が兄の口から飛び出してきて絶句する。
 三年以上の生存率が三十%……?
 それってつまり、三年以上はほとんどの確率で生き残れないということ?
 
「ちょうど今日、その話を友達から聞いて、恵夢に伝えようか迷っていたところなんだ。だから俺は、恵夢のために自分の夢を差し出そうっていう人が現れたら、背中を押すつもりだった」

「お兄ちゃん……」

 兄が真剣に、他人の夢を奪ってまで私の命を救おうとしてくれていることに、胸がじんわりと熱くなった。これには父も母も何も言えずに固まっている。

「お父さん、お母さん。私に夢をたべてって言ってくれてる人、結叶くんって言うんだけど——彼の妹さんがね……」