この夢がきみに喰われても

「そんなことしていいの……? 第一、美結ちゃんは? お医者さんになって、美結ちゃんの病気を治すんじゃないの……? 結叶の夢は、命の次ぐらいに大事なもんじゃないのっ?」

 彼の優しさが痛い。どうしてこんなにも、神様は意地悪なんだろう。どうして美結ちゃんを連れて行こうとするの。どうして彼から、夢を奪うようなことをするのっ。
 心の叫びは誰にも届かない。
 だけど、目の前で必死に頭を下げる結叶は、私の心の中の葛藤をすべて分かっているというふうに、両目をぎゅっと瞑って言った。

「お願いだ……頼む。美結の命が大切だからこそ、俺の夢が本気だからこそ、恵夢にこんなお願いをするんだ。……いや、正直に言う。俺は、恵夢のことが好きだ。だから、恵夢に今の美結みたいになってほしくない。生きて、ほしいんだよ。俺と一緒にっ」

 好きだ。
 その言葉を聞いた時、自分の胸が弾かれたかのような衝撃を覚えた。
 ああ、そうか。
 そうだったんだ。
 私、どうして気づかなかったんだろう。
 私も、きみのことが好きなんだって。

「大丈夫、夢はまた見つけられる。だから俺の夢を喰って、病気を治せ。そこからまた始められるから」

 誠実で、切実な結叶の言葉に、胸の中で渦巻いていたもやもやとした気持ちが一気に吹き飛んで。
 気がつけば私は彼の揺れる瞳を静かに見つめながら、ただひたすらに頷いていた。