「こんなところで突っ立ってる場合!? 早くあいつのところへ行ってあげてっ!」
突如として大声を上げる彼女に、ついていけない私。
そもそも里香が学校以外の場所で話しかけてくるのも久しぶりだし、嫌味以外の言葉をぶつけて来たのも初めてだ。
「ちょっと待って、水原さん。何の話? あいつって誰?」
「まさかあんた、知らないの?」
「知らないって、何を……?」
声を荒げる元親友に疑問をぶつける。里香は一体何の話をしているのだ。頼むからもっと分かりやすく話して欲しい。その一心で。
「今日、結叶くんが昼休みの後からいなくなって……後で先生に聞いたら、急遽病院に行ってるって言うじゃん。クラスのみんな、あいつが重病で倒れて運ばれたんだって話してたっ。私、結叶くんが病院にいるとこ見たことあるし、やっぱり病気なんじゃないかって思ってるんだけど! ねえ、あんた結叶くんの彼女でしょ!? なんでこんなところでぼーっと突っ立ってんの!」
捲し立てるように言う里香は焦燥感に駆られているように、額に玉の汗を滲ませていた。情報が錯綜していて整理が追いつかない。えっと、結叶が途中で学校から病院に向かった? 里香の話の感じからすると、もともと早退する予定ではなかったみたいだ。
ようやく、美結ちゃんに何かあったのだと悟った。
「前も言ったけど、私は結叶の彼女じゃない。で、でも……彼が病院に行ったっていうのには心当たりがある」
「その心当たりって何?」
「水原さんには……い、言えないけど、でも彼にとってはすごく重大なことだ」
「もう、何なのよ! なんでもいいから早く結叶のところへ行ったら!?」
発狂したように叫ぶ彼女に、私は驚きを隠せなかった。
「水原さん、もしかしてそれを伝えるために、わざわざ私の家の近くまで来たの?」
「そ、それの何が悪いのっ」
「いや、悪いっていうか……。だって水原さんは、結叶のことが好き、なのに……?」
「……っ! 違う……! 私はそんなんじゃないんだ。と、とにかく今は余計なこと話してる場合じゃないじゃん。恵夢、あんた早く病院に行きなさいっ」
彼女が、自分の想いを押し殺してこの場にいることが、十分に伝わって来て複雑な気持ちが胸にじわりと広がっていく。いろんな色が混ざって黒くなった絵の具の水をぶちまけたような染みは、これまでの自分と彼女との関わりを思い起こさせる。
私は里香のことを「水原さん」と呼ぶようになったのに、里香はずっと私のことを「恵夢」と呼び続けた。
里香の周りにいる新しい友人たちもみな、私を蔑むように見つめていた。
でも里香は。
里香は本当にずっと、私に冷ややかな視線を向け続けていただろうか——。
突如として大声を上げる彼女に、ついていけない私。
そもそも里香が学校以外の場所で話しかけてくるのも久しぶりだし、嫌味以外の言葉をぶつけて来たのも初めてだ。
「ちょっと待って、水原さん。何の話? あいつって誰?」
「まさかあんた、知らないの?」
「知らないって、何を……?」
声を荒げる元親友に疑問をぶつける。里香は一体何の話をしているのだ。頼むからもっと分かりやすく話して欲しい。その一心で。
「今日、結叶くんが昼休みの後からいなくなって……後で先生に聞いたら、急遽病院に行ってるって言うじゃん。クラスのみんな、あいつが重病で倒れて運ばれたんだって話してたっ。私、結叶くんが病院にいるとこ見たことあるし、やっぱり病気なんじゃないかって思ってるんだけど! ねえ、あんた結叶くんの彼女でしょ!? なんでこんなところでぼーっと突っ立ってんの!」
捲し立てるように言う里香は焦燥感に駆られているように、額に玉の汗を滲ませていた。情報が錯綜していて整理が追いつかない。えっと、結叶が途中で学校から病院に向かった? 里香の話の感じからすると、もともと早退する予定ではなかったみたいだ。
ようやく、美結ちゃんに何かあったのだと悟った。
「前も言ったけど、私は結叶の彼女じゃない。で、でも……彼が病院に行ったっていうのには心当たりがある」
「その心当たりって何?」
「水原さんには……い、言えないけど、でも彼にとってはすごく重大なことだ」
「もう、何なのよ! なんでもいいから早く結叶のところへ行ったら!?」
発狂したように叫ぶ彼女に、私は驚きを隠せなかった。
「水原さん、もしかしてそれを伝えるために、わざわざ私の家の近くまで来たの?」
「そ、それの何が悪いのっ」
「いや、悪いっていうか……。だって水原さんは、結叶のことが好き、なのに……?」
「……っ! 違う……! 私はそんなんじゃないんだ。と、とにかく今は余計なこと話してる場合じゃないじゃん。恵夢、あんた早く病院に行きなさいっ」
彼女が、自分の想いを押し殺してこの場にいることが、十分に伝わって来て複雑な気持ちが胸にじわりと広がっていく。いろんな色が混ざって黒くなった絵の具の水をぶちまけたような染みは、これまでの自分と彼女との関わりを思い起こさせる。
私は里香のことを「水原さん」と呼ぶようになったのに、里香はずっと私のことを「恵夢」と呼び続けた。
里香の周りにいる新しい友人たちもみな、私を蔑むように見つめていた。
でも里香は。
里香は本当にずっと、私に冷ややかな視線を向け続けていただろうか——。



