この夢がきみに喰われても

「俺がちょくちょく学校に遅刻したり欠席したりするのは、美結のお見舞いに来てるからなんだ。先生には体調不良か家の用事でみんなに伝えてほしいって言ってる。うち、両親が早くに亡くなってて、伯父さんの家で暮らしてるんだ。親代わりって言ったら思い上がりかもしれねえけど、できるだけ俺が美結のそばにいてやりたくて」

 彼の家庭の事情を、初めて知った。ご両親がいないという話は初耳だった。
 ご両親の代わりに、妹さんの病室に足繁く通う彼のことを思うと、胸がツンと詰まる思いがした。

「美結のやつさ、こっちが心配するぐらい明るいんだよ。本当に病気なのか疑っちまうくらいにな。でも絶対無理してるんだ。辛いのを隠してる。俺、もう美結にあんな無理矢理笑ってほしくない。だから、俺が美結の病気を治したいって思ったんだけど……まあ、今の俺にできることはねーわな。白血病の治療は確立されるし、どう足掻いたって、美結の治療には間に合わねえんだ」

「そんな……そんなことない、よ」

 そう言い切りたい。けれど、病気のことを詳しく知らない私は、途中で言い淀んでしまった。
 結叶が医者になりたいと言った背景には、これほど切実な願いが込められていたんだ。
 ますます、私が彼の夢を喰うわけにはいかない。
 だってそうでしょ? 大切な妹を救うために抱いた夢を、私が汚していいはずがない。
 
「医者になりたいっていうのは確かに本物の夢だ。でも今、美結はもう助からないかもって言われてて……。だからってわけじゃないけど、それならこの夢を恵夢にあげたい。美結がもしいなくなっても、恵夢のことを救えるなら、俺の夢も美結も、浮かばれると思う」

 ぽつり、ぽつりと一つ一つの言葉を噛み締めるようにして語る結叶の横顔はとても淋しそうで。とてもじゃないが、彼の顔を直視することができなかった。
 病室のロビーには、患者を呼び出す受付スタッフの声だけがやけに大きく響いていた。