この夢がきみに喰われても

「……水原さんだって私のこと知らないよね」

 自分でも驚くほど低くドス黒い声が口から溢れた。目の前に立ちはだかる彼女が、はっと息をのむのが分かった。

「何も知らないのは水原さんの方だよ。そんなふうに自分のことは棚に上げて私に文句言うなんて、おかしいと思う」

「……!」

 腹の底に沈んでいた彼女に対する不満がとうとう爆発する。里香の瞳が大きく見開かれた。
 
「もう私に話しかけないで。私のことが嫌いなら、これ以上関わらないで!」

 ぴしゃりと、雷鳴が轟くように言い放つ。弾かれたように顔を上げた里香が、得体の知れない怪物を見るかのようなまなざしを向けていた。
 私はゆっくりと椅子から立ち上がる。これ以上、里香の前にはいられない。行くあてもないのに、教室から飛び出した。結叶と初めて会話をして日のように。あの時、階段から落ちて彼と保健室に行かなければ、彼と仲良くなることはなかっただろう。コミュニケーションが苦手だと言う彼と、二人きりで出かけることもなかったし、病気のことを打ち明けることもなかった。
 すべてあの日から始まったんだ。
 どれだけ後悔しても、もう後戻りなんてできない。

 学校にはどこにも居場所がなかった。
 そう何度も保健室に駆け込むわけにもいかない。今日は結叶だっていないし、この苦しさを紛らわせる術がない。私はどこに行けば良い? どこなら本当の自分でいられる? 本当の自分を曝け出せるの?

 何度も自問しながら、足は勝手に下駄箱へと向かっていた。外靴に履き替えて、校門の外へと向かう。ポケットにスマホとICカードが入っていることを無意識のうちに確認していた。学校から離れ、街の方へと歩く。いつからか、ズキンズキンと激しい頭痛が始まっていた。呼吸が苦しい。薬、飲まなきゃと思うけれど、あいにく薬は教室に置いてきた鞄の中だ。また失敗したと思うと同時に、ふらりと意識が遠のいていく。
 結叶……。
 地面に倒れ込んだ私は、消えていく光の向こうに彼の笑顔を思い浮かべる。
 助けて、結叶。
 喉から漏れるのはひゅうひゅうという不規則な呼吸音だけ。彼の幻影は意識の向こうへぱちんと弾けた。