この夢がきみに喰われても

「もしかして、怖いのか? 俺に自分のこと知られんのが」

 私が押し黙っていたからか、彼が核心をつく台詞を吐いた。胸がドキリと鳴る。
 怖いのか?
 そうだ。私は——怖いんだ。
 誰かに自分の病気について話すことで、その人との関係が変わってしまうことが、たまらなく怖い。
 他人と違うことを認めたくないし、病気が原因で色眼鏡に見られるのも嫌だ。
 臆病な自尊心が、私を殻に閉じ込めた。
 彼の問いかけに、ゆっくりと深く頷く。
 認めてしまえば簡単なことだった。けれど、十四歳の私には、自分の弱さに気づく余裕はなくて。両親や、兄からの心配も、心のどこかで鬱陶しいと感じていて。誰かに縋り付くことも怖くて、ただ自分の中に不安を押し込めた。
 そんな私の弱さを、結叶は見抜いたんだ。

「そうやって自分の殻に引っ込んでたら、一生変わらないままだぞ」

 真剣な面持ちで諭すように言葉をかけてくる結叶を、通りすがりの人たちが一瞥するのが分かる。見られて恥ずかしいという気持ちと、彼の声に心が引っ張られていく感覚が混ざり合う。

「……いや、言葉が悪かったな。俺に、恵夢のこと話してくれないか。大丈夫、絶対誰にも言わないし、最後までちゃんと聞くから」

 あまりにも優しく、柔らかな言葉が胸の前で弾ける。
 さっきまで身体についたかすり傷が痛んでいたはずなのに、それすら感じなくなった。
 瞬きを繰り返してじっと見つめる彼の顔に、嘘はなかった。

「分かった。話すよ」

 絞り出した声はびっくりするほどか細かった。自分がどれだけ不安だったか、ようやく気づく。自分の気持ちに鈍感で、襲いくる心の痛みには敏感で。だからこんなにも、他人に助けを求めるのが遅くなってしまったんだな。

「よし、そうと決まればあっちの公園で休もう」