「え?」
「ほら、飯島たちにいじめられてること」
「いや……いじめらてるってわけじゃ」
「あれは立派ないじめだよ。北野先生は気づいてないの?」
「……どうだろう。私が何も言わないから、気づかないふりをしてるだけかもしれない」
嘘をついた。
北野先生は、私がクラスで浮いていることに気づいている。先月、部活を辞める際には彼にも相談しに行った。私が病気であることを、先生はもちろん知っている。「内藤が過ごしやすいようにするといい」とアドバイスをくれた。北野先生には二年生の時も授業でお世話になっているから、私が病気で塞ぎ込んでいることも把握してくれている。それが原因でクラスに馴染めないことも。ただ、彼も私と同じで、いじめが発生しているとまでは考えていないのだろう。
「まったく、ひでえよな。性格が変わったってぐらいで無視するとか嫌がらせするとか、幼稚すぎっての。あ、その点俺といる時は安心して。恵夢の前の性格知らないから、今のお前の性格について、なんとも思わない。最初は作文で感じた性格と違いすぎで戸惑ったけど、実際に接したことがあるのは今の恵夢だから」
率直な彼の主張は、荒んでいた私の心を和らげてくれた。
「そんなふうに言ってくれて、素直に嬉しい。……ありがとう。なんて、お礼を伝えたらいいか分からないけど、本当に感謝してる」
結叶は整った顔で私の顔をまじまじと見つめている。こんなふうに他人にじっと見つめられるのは慣れなくて、耳が熱くなるのを感じた。
「どういたしまして。そうだ、そのお礼ってとこなんだけどさ。テストが終わったら、俺と遊んでくれない?」
「遊び?」
予想外の提案が降ってきて思わず聞き返す。
「そ。遊びなんて言葉で濁したけど、まあつまり、俺とデートしてくれねえかなって」
「で、ででででデート!?」
さっきから結叶の言葉をおうむ返しばかりしているが、さすがに勘弁してほしい。
だって、生まれてこの方男の子からデートに行こうと誘われたことなんて、ないんだもん。それも、出会って数日しか経っていない人から。
「そんなに驚くことか?」
「お、驚くに決まってるよ! 私、デートとかしたことないしっ」
慌てたせいで、恥ずかしいことまでつい口走ってしまう。いや、だってまだ中学生だし? デートなんてしてる子は、クラスで一軍女子と呼ばれる子たちぐらいで……。私みたいな二重人格陰キャが異性と出かけるなんて、ありえない。
「それは好都合だ。俺も、デート初めてなんだ」
「こ、好都合ってそんな! ……え、初めてなの?」
「うん。なんだ、おかしいか?」
「おかしくはない、けど。さらっと誘ってきたから、慣れてるのかなって……」
「慣れてなんかねえよ。こう見えて結構緊張した。いや、今も緊張してる」
「へ、へえ〜」
先ほどから驚きっぱなしで、辿々しい受け答えばかりしてしまう。照れ隠しなのか、結叶がさっと視線を逸らした。見れば私と同じように耳が赤く染まっている。なんだ、彼も恥ずかしいんだ。ちょっと安心した……かも。
「……いいよ、デート」
しおらしい彼の反応に、ついデートすることを承諾していた。
「え、マジで? 本当にいいの?」
「うん。てかそっちが誘ったんでしょ。何びっくりしてるの」
「だって、てっきり断られるかと思ってたから」
「ゆ、結叶だから、おっけーしたの。勘違いしないでね」
言った後に、余計に勘違いさせてしまいそうな台詞だったと思い至る。結叶も同じことを考えたのか、「それってどういう——」と口走る。慌てて「なんでもない!」と否定しておいた。
「とにかく決まりね! 日にちは、いつがいい?」
「中間テストが二十三日まででだから、その次の日の二十四日土曜日はどうだ?」
「うん、分かった。その日にしよう」
デートの日取りが決まると、本当に二人で出かけるのだなという実感が沸いた。なんだか不思議な気分だ。まだ出会って一週間も経っていない男の子と、二人きりでお出かけするなんて。どこに行くんだろう。行く先がどこであれ、結叶となら楽しいだろう。自然とそんなふうに思えていた。
「ほら、飯島たちにいじめられてること」
「いや……いじめらてるってわけじゃ」
「あれは立派ないじめだよ。北野先生は気づいてないの?」
「……どうだろう。私が何も言わないから、気づかないふりをしてるだけかもしれない」
嘘をついた。
北野先生は、私がクラスで浮いていることに気づいている。先月、部活を辞める際には彼にも相談しに行った。私が病気であることを、先生はもちろん知っている。「内藤が過ごしやすいようにするといい」とアドバイスをくれた。北野先生には二年生の時も授業でお世話になっているから、私が病気で塞ぎ込んでいることも把握してくれている。それが原因でクラスに馴染めないことも。ただ、彼も私と同じで、いじめが発生しているとまでは考えていないのだろう。
「まったく、ひでえよな。性格が変わったってぐらいで無視するとか嫌がらせするとか、幼稚すぎっての。あ、その点俺といる時は安心して。恵夢の前の性格知らないから、今のお前の性格について、なんとも思わない。最初は作文で感じた性格と違いすぎで戸惑ったけど、実際に接したことがあるのは今の恵夢だから」
率直な彼の主張は、荒んでいた私の心を和らげてくれた。
「そんなふうに言ってくれて、素直に嬉しい。……ありがとう。なんて、お礼を伝えたらいいか分からないけど、本当に感謝してる」
結叶は整った顔で私の顔をまじまじと見つめている。こんなふうに他人にじっと見つめられるのは慣れなくて、耳が熱くなるのを感じた。
「どういたしまして。そうだ、そのお礼ってとこなんだけどさ。テストが終わったら、俺と遊んでくれない?」
「遊び?」
予想外の提案が降ってきて思わず聞き返す。
「そ。遊びなんて言葉で濁したけど、まあつまり、俺とデートしてくれねえかなって」
「で、ででででデート!?」
さっきから結叶の言葉をおうむ返しばかりしているが、さすがに勘弁してほしい。
だって、生まれてこの方男の子からデートに行こうと誘われたことなんて、ないんだもん。それも、出会って数日しか経っていない人から。
「そんなに驚くことか?」
「お、驚くに決まってるよ! 私、デートとかしたことないしっ」
慌てたせいで、恥ずかしいことまでつい口走ってしまう。いや、だってまだ中学生だし? デートなんてしてる子は、クラスで一軍女子と呼ばれる子たちぐらいで……。私みたいな二重人格陰キャが異性と出かけるなんて、ありえない。
「それは好都合だ。俺も、デート初めてなんだ」
「こ、好都合ってそんな! ……え、初めてなの?」
「うん。なんだ、おかしいか?」
「おかしくはない、けど。さらっと誘ってきたから、慣れてるのかなって……」
「慣れてなんかねえよ。こう見えて結構緊張した。いや、今も緊張してる」
「へ、へえ〜」
先ほどから驚きっぱなしで、辿々しい受け答えばかりしてしまう。照れ隠しなのか、結叶がさっと視線を逸らした。見れば私と同じように耳が赤く染まっている。なんだ、彼も恥ずかしいんだ。ちょっと安心した……かも。
「……いいよ、デート」
しおらしい彼の反応に、ついデートすることを承諾していた。
「え、マジで? 本当にいいの?」
「うん。てかそっちが誘ったんでしょ。何びっくりしてるの」
「だって、てっきり断られるかと思ってたから」
「ゆ、結叶だから、おっけーしたの。勘違いしないでね」
言った後に、余計に勘違いさせてしまいそうな台詞だったと思い至る。結叶も同じことを考えたのか、「それってどういう——」と口走る。慌てて「なんでもない!」と否定しておいた。
「とにかく決まりね! 日にちは、いつがいい?」
「中間テストが二十三日まででだから、その次の日の二十四日土曜日はどうだ?」
「うん、分かった。その日にしよう」
デートの日取りが決まると、本当に二人で出かけるのだなという実感が沸いた。なんだか不思議な気分だ。まだ出会って一週間も経っていない男の子と、二人きりでお出かけするなんて。どこに行くんだろう。行く先がどこであれ、結叶となら楽しいだろう。自然とそんなふうに思えていた。



