この夢がきみに喰われても

「だって、羽鳥くんのそんな顔初めて見たんだもん」

「初めて見たも何も、俺たちまだ出会って一週間も経ってないだろ」

「それもそうか」

 こんなふうに、彼と軽快なやりとりができるなんてあまりに意外だ。でもそれが楽しくて、里香たちと部活が休みの日にファストフード店で駄弁っていた頃の記憶を思い出す。友達と、こうして取り留めのない会話をすることに、こんなにも飢えていた。友達を心の底から欲していたのは私だ。

「さっきさ、ひとりぼっちって言ってたけど。羽鳥くんは私と友達にならなくても、ひとりぼっちにはならないと思うよ。きっとすぐに他の友達ができるだろうし。ほら、隣の席の林田くんなんか、面倒見もいいし雑食だから仲良くなれそう」

 思っていたことを素直に伝える。
 羽鳥くんは陰気な私とは違う。持ち前の飄々とした性格と、人目を引く容姿で、きっと誰からも好かれるだろう。今はまだ転校したてで友達がいないかもしれないけれど、よりにもよって私と友達にならなくても大丈夫だと思う。
 
「そうかなー。俺、前も言ったけどコミュニケーション苦手なんだって。なんか変に期待されて近づかれて、『あれ、こいつ思ってたのと違うわ』って勝手に離れていくやつとか見てると無性に腹が立つ。俺は最初から俺だっつーのに、勝手に正義感強そうとか、不良っぽいとかイメージして期待外れだってがっかりされるのは真っ平御免だ」

 なんでもないふうにそう言ったが、言外に含まれる切実さに胸が締め付けられる思いがした。
 変に期待されて勝手にがっかりされるのは嫌だ。
 羽鳥くんの言いたいことはよく分かる。身に覚えがないわけではなかった。病気になってから初めて会う人たちに、「内藤さん、明るい人かと思ったのに」と何度か言われたことがある。かくいう羽鳥くんだって、私の作文を見て、実際の私の性格との違いに驚いたって言っていたわけだし。
 羽鳥くんにも、私と同じような経験があるんだろうか。
 だとすればやっぱり、期待外れと言われて嫌な気持ちになっただろうな。

「まあとにかくさ。お互いに友達になれば何の問題もないだろ。内藤さんは俺のこと、もうこういう性格だって知ってるはずだし。俺だって内藤さんが本当は友達と明るく過ごしたいのにできないっていう事情はなんとなく分かったから」