この夢がきみに喰われても

「内藤さんは? 部活、今入ってないんだっけ」

「うん……先月にバド部を辞めちゃって」

「バド部? 確か水原が部長だよな」

「う、うん。私がキャプテンで水原、さんが部長だから仲は良かったんだけど……」

 羽鳥くんが里香のことを水原、と呼び捨てにしていることに少々驚いた。私のことは内藤さん、とさん付けをしているから尚更。

「喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩……みたいなものかな。ほら、羽鳥くんが前に私に言った通り、私、二年生の時から性格が変わったから。これでも、前はもっと明るい性格だったの。たぶん、明るい頃の私を見たら羽鳥くんびっくりすると思う。それぐらい変わっちゃって。今は見ての通り暗いし、教室でもあんまり喋らない。友達もいなくなっちゃったから余計に」

 自分でも驚くくらい、自分のことをつらつらと喋ってしまっていた。こんなことを伝えたのは羽鳥くんぐらいだ。わざわざ話すような人がいなかったと言えばそうだが。出会ったばかりの人間に自己開示をするのはすごく勇気がいることだから。

「そっか、そんなに変わったんだ。何かきっかけがあったんだろうけど、まあ聞かないでおくよ」

 ズズっと、コーヒーを啜った彼はなんの気無しにそう言ってくれた。
 聞かないでおく。
 そのさりげない心遣いにほっとしている自分がいた。

「内藤さんが良かったらさー、俺たち友達にならね?」

「え?」

 コーヒーのカップをテーブルの上にことんと置くと、彼は私の目をじっと見つめた。

「いや、だってさ、内藤さん友達いなくなったって言ってたじゃん。俺も、転校したてでまだ友達と呼べる存在もいねえから。俺たちが友達になれば、お互いにひとりぼっちじゃなくなるだろ。良くない? 友達同盟」

「友達同盟……何それ」

「おい、今ネーミングセンスねえなとか思っただろ?」

「違うって。びっくりしただけ。……いやごめん、嘘。ちょっと思った」

「うわ、ひでえやつ」

 眉をぎゅっと寄せてしかめっつらをする羽鳥くんの顔がおかしくて、私はついぷっと吹き出してしまった。

「人の顔見て笑うなよー」