この夢がきみに喰われても

「内藤さん」

 放課後、みんながそれぞれ部活動に出かけたり帰宅したりする中で、なんと羽鳥くんが私に話しかけてきた。反射的に他人の目が気になった私は、ばっと周囲を見回す。

「大丈夫、みんなもう帰っちまったから」

「そ、そっか。気を遣ってくれてありがとう」

 どうやらみんなが見ていないタイミングで話しかけてくれたらしい。そこまで考えてくれているとは思わなくて、素直に驚いた。

「えっと、何か用かな、羽鳥くん」

 本当は四時間目の前の休憩時間でのことにお礼を伝えたいのに、素直に言葉が出てこない。この半年間で、対人関係を築くのも下手になってしまった。

「内藤さんって部活には入ってないんだっけ? 良かったら一緒に帰らね?」

「えっ?」

 まさかの提案に、羽鳥くんの顔をまじまじと見つめてしまう。

「ほら、俺も転校したばっかりで部活とか入ってないからさー。あと、もうすぐ中間テストだろ? テスト範囲のところ、まだついていけてない箇所あるから教えてもらえねえかなって……。図々しくてごめん」

「あ……そういうこと! うん、いいよ、ぜひ」

 頭をぽりぽりと掻きながらちょっと恥ずかしそうにする羽鳥くんが、可愛らしい。見た目は「可愛い」なんて形容できるタイプとは程遠い男らしさに溢れているのに、どうしてそんなふうに感じるのだろうか。
 転校したばかりだと、確かにテストは不安だろう。
 そういうことなら、と二つ返事で答えた私は、先ほどの件でお礼を伝えるチャンスをもらえてラッキーだと思った。