月曜日の朝、いつものように教室までたどり着くと、無意識のうちに羽鳥くんの席を気にしてしまう。まだ彼は来ていなかった。とはいえ、あと十分もすれば朝のHRが始まってしまうという時間帯だ。
「はい、みんな席つけー」
定刻通りにやって来た北野先生は羽鳥くんの席を一瞥すると、「今日は羽鳥は遅刻だ」と告げた。
先生の言うとおり、羽鳥くんがやって来たのは四時間目が始まる直前だった。
「あ、結叶くんだーおはよう」
羽鳥くんがやって来たところで、数人の女子たちが待ってましたとばかりに反応する。羽鳥くんは「おはよう」と素っ気なく返すと、スタスタと席に座った。一軍女子たちが早速羽鳥くんの席を囲う。
「金曜日も休んでて心配してたんだよ。体調悪かったの?」
「ああ、まあそんなところ」
「そっか〜。大変だったね。今日はもう大丈夫? 遅刻したのは病院に行って来たから?」
「そうだな」
何を聞かれてもぶっきらぼうな返事しかしない羽鳥くんに違和感を覚える。以前保健室で話した時は、もっと素直に私と口を利いてくれていたから。
あ、でもそうか。
コミュニケーションが苦手だって言ってたっけ。
朝は低血圧とかで機嫌が悪いタイプなのかも。
そう思うと、彼の気のない返事も可愛らしく思えてくるから不思議だ。
「内藤さ、何にやにや笑ってんの?」
どこからか、急に鋭い矢尻が自分に飛んできてぎょっとする。
直線上の羽鳥くんを囲む女子の一人が、私をキリリと睨みつけていた。
「……いや、別に」
教室の端と端で会話をせざるを得なくなり、必然的に互いの声も大きくなる。私たちに注目の視線が注がれる。
「とぼけんなよ。今、あたしら見て笑ってただろ!」
その女子——飯倉さんは、陸上部のキャプテンで、他の部活の子たちからも厳しいと評判の女の子だ。キリッとした顔立ちが特徴の美人顔で、こんがり健康的に日に焼けた肌が麗しいと言う人もいる。正直、今の私が一番苦手なタイプだ。
「飯倉さんたちのことを、笑ってたんじゃなくて、ちょっと、思い出し笑いをしてたというか」
彼女に対する恐怖心から、自然と声が震える。嫌だ、恥ずかしい。みんなが見てる。教室の隅の方で友達と話し込んでいた里香も、私たちの会話にじっと耳を傾けている様子だ。
病気になる前、まだ里香と仲が良かった頃ならきっと、私に助け船を出してくれていただろう。けれど今は、里香も私をフォローしてくれることもない。なんなら、飯倉さんたちと一緒になって私を責めてくるような予感さえしていた。
「思い出し笑いとかきっっっしょ! 下手な言い訳してないでさ、宣言したらどう? 結叶くんに興味あります! メロメロですって」
「菜緒、それやばいって。傑作すぎ!」
ぎゃはは、と下品な笑い声を上げる飯倉さんたち。私はぎゅっと目を瞑り、自分の殻の中に閉じこもろうと必死になった。頭がズキズキと痛い。こんな日に限って体調がとことん悪くなる。ざわざわと空気の揺れる教室。上手く心に蓋をすることができずに、ひどい耳鳴りに襲われた。
もういやだ。こんな場所……。
これ以上教室にいたら、自分がおかしくなってしまう。
心がずたずたに引き裂かれて、もう二度と立ち上がれなくなりそう。
不安や恐怖で頭がいっぱいになった時、「あのさ」と彼が口を開いた。
「はい、みんな席つけー」
定刻通りにやって来た北野先生は羽鳥くんの席を一瞥すると、「今日は羽鳥は遅刻だ」と告げた。
先生の言うとおり、羽鳥くんがやって来たのは四時間目が始まる直前だった。
「あ、結叶くんだーおはよう」
羽鳥くんがやって来たところで、数人の女子たちが待ってましたとばかりに反応する。羽鳥くんは「おはよう」と素っ気なく返すと、スタスタと席に座った。一軍女子たちが早速羽鳥くんの席を囲う。
「金曜日も休んでて心配してたんだよ。体調悪かったの?」
「ああ、まあそんなところ」
「そっか〜。大変だったね。今日はもう大丈夫? 遅刻したのは病院に行って来たから?」
「そうだな」
何を聞かれてもぶっきらぼうな返事しかしない羽鳥くんに違和感を覚える。以前保健室で話した時は、もっと素直に私と口を利いてくれていたから。
あ、でもそうか。
コミュニケーションが苦手だって言ってたっけ。
朝は低血圧とかで機嫌が悪いタイプなのかも。
そう思うと、彼の気のない返事も可愛らしく思えてくるから不思議だ。
「内藤さ、何にやにや笑ってんの?」
どこからか、急に鋭い矢尻が自分に飛んできてぎょっとする。
直線上の羽鳥くんを囲む女子の一人が、私をキリリと睨みつけていた。
「……いや、別に」
教室の端と端で会話をせざるを得なくなり、必然的に互いの声も大きくなる。私たちに注目の視線が注がれる。
「とぼけんなよ。今、あたしら見て笑ってただろ!」
その女子——飯倉さんは、陸上部のキャプテンで、他の部活の子たちからも厳しいと評判の女の子だ。キリッとした顔立ちが特徴の美人顔で、こんがり健康的に日に焼けた肌が麗しいと言う人もいる。正直、今の私が一番苦手なタイプだ。
「飯倉さんたちのことを、笑ってたんじゃなくて、ちょっと、思い出し笑いをしてたというか」
彼女に対する恐怖心から、自然と声が震える。嫌だ、恥ずかしい。みんなが見てる。教室の隅の方で友達と話し込んでいた里香も、私たちの会話にじっと耳を傾けている様子だ。
病気になる前、まだ里香と仲が良かった頃ならきっと、私に助け船を出してくれていただろう。けれど今は、里香も私をフォローしてくれることもない。なんなら、飯倉さんたちと一緒になって私を責めてくるような予感さえしていた。
「思い出し笑いとかきっっっしょ! 下手な言い訳してないでさ、宣言したらどう? 結叶くんに興味あります! メロメロですって」
「菜緒、それやばいって。傑作すぎ!」
ぎゃはは、と下品な笑い声を上げる飯倉さんたち。私はぎゅっと目を瞑り、自分の殻の中に閉じこもろうと必死になった。頭がズキズキと痛い。こんな日に限って体調がとことん悪くなる。ざわざわと空気の揺れる教室。上手く心に蓋をすることができずに、ひどい耳鳴りに襲われた。
もういやだ。こんな場所……。
これ以上教室にいたら、自分がおかしくなってしまう。
心がずたずたに引き裂かれて、もう二度と立ち上がれなくなりそう。
不安や恐怖で頭がいっぱいになった時、「あのさ」と彼が口を開いた。



