「六時間目はさすがにもう行くわ。内藤さんは休んだ方がいいよ」
「……うん、そうさせてもらうね」
よっこいしょ、と椅子から立ち上がった羽鳥くんは、頭を掻きながら保健室の扉を開ける。ちょうど入れ替わりで中井先生が帰って来た。
「あ、もう頭痛は大丈夫なの?」
「はい。俺だけ戻ります。彼女のこと、よろしくお願いします」
大人のような口ぶりで彼が先生にそう頼んだのを聞いて、胸がきゅっと締め付けられるような感覚に陥った。
やだ、今のは何——。
頭で冷静に考える暇はなかった。羽鳥くんが行ってしまう。明日になればまた教室で顔を合わせるのには変わりないのに、彼がずっと遠くへ歩いていくような気がした。
「羽鳥くん!」
咄嗟にベッドから身を起こして叫ぶ。先生が目を丸くして私を見た。羽鳥くんは——ゆっくりとこちらを振り返る。まるで最初から、名前を呼ばれることを知っていたみたいに。
「あの、さっきは助けてくれてありがとうございましたっ」
階段から落ちた元凶は彼にあるのかもしれない。けれど、階段の下でうずくまっていた私を助けてくれたのには変わりない。ようやく素直にお礼を伝えることができたと、ほっとした。
「どういたしまして。てか元々俺のせいだし、お礼を言われる筋合いはないよ」
それだけ言い残して去っていく背中。窓の外から体育の先生の声はもう聞こえない。六時間目の開始を告げるチャイムが、私と中井先生だけがいる保健室にも静かに響き渡っていた。
「……うん、そうさせてもらうね」
よっこいしょ、と椅子から立ち上がった羽鳥くんは、頭を掻きながら保健室の扉を開ける。ちょうど入れ替わりで中井先生が帰って来た。
「あ、もう頭痛は大丈夫なの?」
「はい。俺だけ戻ります。彼女のこと、よろしくお願いします」
大人のような口ぶりで彼が先生にそう頼んだのを聞いて、胸がきゅっと締め付けられるような感覚に陥った。
やだ、今のは何——。
頭で冷静に考える暇はなかった。羽鳥くんが行ってしまう。明日になればまた教室で顔を合わせるのには変わりないのに、彼がずっと遠くへ歩いていくような気がした。
「羽鳥くん!」
咄嗟にベッドから身を起こして叫ぶ。先生が目を丸くして私を見た。羽鳥くんは——ゆっくりとこちらを振り返る。まるで最初から、名前を呼ばれることを知っていたみたいに。
「あの、さっきは助けてくれてありがとうございましたっ」
階段から落ちた元凶は彼にあるのかもしれない。けれど、階段の下でうずくまっていた私を助けてくれたのには変わりない。ようやく素直にお礼を伝えることができたと、ほっとした。
「どういたしまして。てか元々俺のせいだし、お礼を言われる筋合いはないよ」
それだけ言い残して去っていく背中。窓の外から体育の先生の声はもう聞こえない。六時間目の開始を告げるチャイムが、私と中井先生だけがいる保健室にも静かに響き渡っていた。



