この夢がきみに喰われても

「妹——美結(みゆ)って言うんだけど、美結は全然お前と違うのにな。ひとりぼっちでいるからか、気になっちまった」

 ひとりぼっちで。
 彼の口から紡ぎ出された言葉の違和感に、首を傾げた。
 明るい性格をしているのにひとりぼっちなの? 
 それってどういうことなんだろう。
 私でさえ、病気で性格が変わってしまうまでは、クラスに馴染んでいた。バド部以外の友達だっていたし、ひとりぼっちで寂しいと感じたことはなかった。

「妹さんはどうして——」

 そう問いかけた時、頭上からチャイムが降り注いだ。
 
「五時間目、終わっちゃったね」

「ああ、ちょうど良い息抜きになったよ」

「羽鳥くん、授業サボって大丈夫?」

「頭痛いんだからサボりじゃねえけど」

 私の前でも仮病を装おう彼に、私はおかしくて笑ってしまった。

「今朝、林田くんのノート写してたよね。そういうとこは真面目なのに、授業サボるのは平気なんだ」

 どうしてか、羽鳥くんの前では普段教室にいる時と比べて饒舌になっている自分がいる。彼の前で、私はいい加減おかしい。彼は「ん?」ととぼけ顔でこちらを一瞥した。

「いや、だから仮病じゃねーって。それに、勉強ちゃんとやらねえと置いてかれるし」

「ふうん。もしかして勉強苦手?」

「ん、まあ苦手とまではいかないけどそうだな。こっちの学校の方が授業進んでるし、もっと頑張らないとって思う」

「へえ」

 本当に、真面目なのか不真面目なのか分からない一言だ。勉強に、それなりに苦手意識があるのかもしれない。だったら私が、前の学校より進んでる分だけ教えるよ——という言葉は、唾と一緒にごくりと呑み込んだ。
 私みたいな人間に一対一で勉強を教えられたら、羽鳥くんまでクラスで嫌な目に遭うかもしれない。そう思うと、簡単に誰かを自分のエゴに付き合わせることはできないな、と改めて考え直す。