この夢がきみに喰われても

「あのさー、さっきはごめん」

 眠っているフリをしている私に、ボソリと彼が言う。反射的に目を開けてしまった。素直に謝られてびっくりする。

「……別に、気にしてないし」

 大嘘つきだ。彼の言葉を気にしていないなら、今ここで保健室で横たわってなんかいない。

「俺、口が悪いというか、ちょっと乱暴なとこあるから。感情的になると余計にさ。怒ってるわけじゃないんだけど」
 
「そう、なんだ」

 彼の言うことは本当なのかもしれない。
 確かにさっきの教室でのやりとりも、別に彼が怒っているようには見えなかった。
 ただ、作文を書いていた時の私と今の私を勝手に比べて、「仮面を被ってる」とか、「いい子に見られたいの」とか、心にもないことを言われたことに、無性に腹が立ったのだ。

 私の反応が芳しくないと悟ったのか、羽鳥くんは大きく息を吐いて「はああ」と大袈裟にため息をついた。なんだ。なんなのよ、そんなに私と話すのが億劫? だったら早くここを出ていけばいいのに——と悪態をつきそうになった時。

「俺、ほんっっっとうにダメだな。だから前の学校でもコミュニケーション苦手だとか言われるんだ、ちくしょう」

「え?」

 ガシガシと頭を掻きむしりながら首を回す羽鳥くんを見て、何事かと固まってしまう。

「とにかくごめん。内藤さんのこと、本当に純粋に気になっただけなんだ。あの作文を書くやつがどんな人間なのか」

「こんな陰気なやつで、がっかりした?」

 素直に自分の非を認める羽鳥くんに対しても、卑屈になってしまう。病が変えてしまった性格は、滅多なことでは元に戻らないらしい。

「がっかりしたっていうか……心配になった」

「心配……」

 あまりにも予想外の回答が飛んできて面食らう。心配? どうして、会ったばかりの私にそんなことを——と聞く前に、彼は続けた。