この夢がきみに喰われても

 朝から嫌な気分になりながら、なんとか一組の教室で自分の席についた。
 なんとはなしに教室を眺めていると、直線上に並んだ彼——羽鳥結叶と目が合った。
 ぺこり、と彼がお辞儀する。
 まさか反応があると思っていなかった私は、戸惑いつつも、つられるようにしてちょこっとだけ頭を下げた。
 なんか、変なの。
 まだ一言も言葉を交わしていないのに、どうしてか気になってしまう。
 会釈をするだけの関係で、友達とか恋人とか、私たちの間には具体的に何か名前がついているわけではない。たぶんこの先も、単なるクラスメイトとして、同じ教室の中で過ごすだけの関係になりそうだ。
 羽鳥くんはすぐに前を向いて、何やらノートにペンを走らせた。

「おはよう羽鳥、なにしてんの?」

 羽鳥くんの隣の席にやってきた委員長の林田くんが聞く。

「授業の振り返り。俺の通ってた学校よりちょっと進んでるから、置いてかれないように」

「へえ、真面目だな。良かったら俺のノート写す?」

「いいのか?」

「もちろん」

 私の席から離れているのに、羽鳥くんと林田くんの声はなぜか鮮明に聞こえた。二人は挨拶がわりのノートを交換する。
 真面目な二人だな。
 昨日、羽鳥くんを見た時はちょっと不良っぽい印象があったけど、そうじゃないのかもしれない。クラスの女子たちは羽鳥くんの容姿と、不良っぽいところに惹かれると噂していたけれど、どうなんだろう。まあ、ともあれ私には関係のない話だ。
 ……と、他人事のように考えていたのだけれど。

「内藤さん」

 昼休み、席について本を読んでいると、右隣から声をかけられた。
 聞き慣れない声にはっと顔を上げる。
 隣に立っていたのは、紛れもなく彼——羽鳥結叶だった。