この夢がきみに喰われても

 兄と食事をしながら、半年前の出来事を思い出していると、こめかみがズキンと痛んだ。

「お兄ちゃん、提案はありがたいんだけど、ちょっと考えたいな」

 友人の父親がやっているという病院を紹介してくれた兄に、私は小さく返事をした。

「ああ、分かった。こういうのは気持ちが大事だし、俺の方にはいつでも相談してよ」

「……うん、ありがとう」

 兄は優しい。
 私が病気になる前、ずっと小さい頃から私を守ってくれていた。周りからはブラコンだなんて言われてから揶揄われることもあったけれど、私にとって兄はヒーローだ。
 夕飯を食べ終えると、いつものように自室へと引き篭もる。
 そのうち両親が帰ってきたけれど、「おかえりなさい」と言うだけで他に会話はない。
 食事をする時以外、家族と顔を合わせることもめっきり減ってしまった。
 こんな生活、いつまで続くんだろう。
 ぐるぐるもやもや。頭の中が霞がかっているような気がする。あの日、夢欠症だと診断されてからずっと。この病気は夜眠るごとに進行していくらしい。だから私は、夜が嫌い。眠るのが怖い。朝目が覚めたら日毎に頭痛がひどくなっていく。病気が見つかったばかりの頃は症状もすぐに治っていた。けれど、だんだんと治らない時間が増えている。頭が痛くて体育の授業は休みがちだ。

「もう二度と、バドもできないんだろうな」

 大好きだった部活からも遠ざかり、私は日々孤独を極めている。
 ひとりぼっちの淋しさはきっと、誰にも理解してもらえない。
 毎日、絶望感に身を沈めながら、恐怖心に怯えながら、気がつくとベッドの中で眠りに落ちるのだった。