食事を終えて、鏡の前でくるっと一周する。

まだおろしたての綺麗なプリーツがふわっと広がる。
胸元のネクタイは、頑張って練習した成果が出て綺麗な形のままとどまっている。
少しネクタイを緩めて第一ボタンの空いている首元からはしーくんからの誕生日にもらったネックレスが覗く。

メイクも完了して、もう一度、鏡を確認する。
自分の完成度の高さに、何回でもはしゃぎたくなる。
テンションをあげて、新品のローファーに足を通す。

「もえぎ」

後ろから少しいつもより低いしーくんの声が聞こえる。
捕まったら終わりだと思いダッシュでお家を出ようとするとしーくんに腕をつかまれる。

くるっと向きを半回転させられて、手際よく私の服を戻していく。

「スカートは巻かない、もえぎはスタイルがいいんだから膝丈でもかわいいよ。第一ボタンはしめて、ネクタイも上まで締める。メイクもちょっと落とそうか。何もしなくてもかわいいんだから最初から悪目立ちしないこと。それから…」

と、私の気合十分な見た目にケチをつけて、かわいさとともに私のテンションも下がる。

「しーくんの隣に並ぶならもっとかわいくならないとだめなのに。」

ぼそっと本音が漏れて顔が熱くなっていく。
ばれちゃいけないこの気持ちに噓をつきながら生活するのは本当に大変だ。

結局、膝丈のスカートに微妙な長さの靴下、ノーメイクにストレートなおろし髪、という何とも言えない普通の恰好で入学式を迎えることになってしまった。

どうにか押し切って色つきの保湿リップと第一ボタンをしめることだけは許してもらったけど、ネクタイを上まで締めなきゃいけないから、正直のどが苦しくないだけで見た目はよくならない。
なんなら、コンタクトではなく眼鏡にしろと言われまったく似合わない黒縁の眼鏡をかけさせられる。
コンタクトが入っていないだけで本当にほぼ見えないから眼鏡をかけざるを得ないのをわかってるのだから本当にしーくんって意地悪だなと思う。
それと同時に、何を考えているのかわからない時も多いと思った。